政治関連リスクによる損失の影響(2026年1-2月号)

政治関連リスクによる損失の影響(2026年1-2月号)

モーガン・オルーク[*]

 地政学的緊張とマクロ経済の不安定化は世界中で不確実性を生み出しており、政治リスク管理と保険*1)の重要性はますます高まっている。ハウデン*2)の調査によると、多国籍企業の51%が2020年から2025年の間に国際投資において政治リスク関連の損失を被ったことが明らかになった。

*1)訳者注:政治リスク保険は日本では、公的機関(NEXI)と民間損害保険会社の2つのルートがある。日本の政治リスク保険の主軸となっているのは、政府が全株式を保有する株式会社日本貿易保険(NEXI)による保険である。さらに、日本の大手損保会社や、外資系損保も扱っている。
*2)訳者注:Howden Group Holdings(ハウデン・グループ)とは、英国ロンドンに本拠を置く、従業員所有型(社員が株主)としては世界最大の保険仲介グループ。Howdenは「独立系・従業員所有」という独自の文化を武器に、「大手とは異なる柔軟なリスク解決策」を求める米国企業の間で急速にシェアを伸ばしている。

 損失の原因として最も多く報告されたのは:

  資金を本国に送還するための現地通貨両替の困難(40%)
  外国政府による所有権への干渉(40%)
  政治的暴力による海外資産の放棄の強制(33%)

であった。

 金額でみると、外国政府の干渉による平均損失額は1,980万ドルと最も多く、次いで通貨両替問題が1,640万ドル、政治的暴力が1,430万ドルである。

 政治リスク保険に加入している企業は、未加入企業と比較して「損失額が平均で140万ドル低い」と報告されている。保険に加えて、80%の企業がシナリオプランニング手法*1)、地政学的問題追跡*2)、データ分析*3)といった、政治リスクによる損失を軽減するためのリスク管理ツールの導入を計画している。

*1)訳者注:シナリオプランニング手法 (Scenario-Planning Methodologies)とは、「未来は一つではない」という前提に立ち、起こり得る複数の未来(シナリオ)を想定して、それぞれの影響をシミュレーションする手法。
*2)訳者注:地政学的問題追跡 (Geopolitical Issue Tracking)とは、世界各地の政治情勢、選挙、法規制の変更、紛争の火種などをリアルタイムで監視・分析する仕組み。
*3)訳者注:データ分析 (Data Analytics / Risk Modeling)とは、過去の統計データと現在の指標を組み合わせ、政治リスクを「金額(損失期待値)」として算出するデジタルツール。例えば、VAPOR (Value at Political Risk) と呼ばれるモデルなどがある。これは「ある国に100ドル投資した場合、今後10年間で政治的要因により何ドル失う可能性があるか」を確率論的に算出するモデルである。

トピック
保険、国際リスク、政治リスク、リスクマネジメント


注意事項:この記事は、“The Impact of Political Risk Losses” Morgan O’Rourke | January 13, 2026,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
モーガン・オルークは、リスクマネジメント協会(RIMS)の「リスクマネジメント」編集長兼コンテンツ・出版担当シニアディレクター。

鈴木英夫はRIMS日本支部の主席研究員。