ソーシャルメディア依存症判決後の保険適用範囲への影響(2026年5-6月号)

ソーシャルメディア依存症判決後の保険適用範囲への影響(2026年5-6月号)

マイケル・サリンベネ、ベンジャミン・フリーゲル(訳:鈴木英夫)[*]

Risk Management web特別版 2026 May-June

 

保険会社が依存症関連の請求で弁護費用の補償を拒否

 3月下旬、カリフォルニア州の陪審は、Meta社とYouTube社に対し、フェイスブックとインスタグラムというソーシャルメディアプラットフォームの中毒性を誘発するとされるデザインをめぐり、数百万ドルの損害賠償を命じる判決を下した。Meta社はこの判決を不服として控訴する意向を示している。しかし、この訴訟に関連する別の判決が、保険適用範囲への影響という点で注目を集めている。

 2月27日、デラウェア州高等裁判所は、インスタグラムとフェイスブックの親会社であるMeta社と複数の保険会社に対して起こされた「ハートフォード損害保険会社v.インスタグラムLLC」事件の判決を下した。保険会社に有利な判決であり、過失として申し立てられた請求を含む依存症関連の請求に対するMeta社の弁護費用の保険での補償を拒否できると認定した。この判決が(今後の裁判でも)支持されれば、ハートフォード・アンド・チャブ・リミテッドの保険部門を含む20社以上の保険会社が、カリフォルニア北部地区で係争中のソーシャルメディア依存症複数地区訴訟および関連する州裁判所の訴訟におけるMeta社の弁護団への資金提供を回避できることになる。

 デラウェア州裁判所の決定は、カリフォルニア州法の重要かつ保険会社に有利な解釈を表している。批評家らは、これは補償に対する保険契約者の合理的な期待を歪めるものであり、他の地域でこれに従えば、依存症関連の賠償請求に直面している企業が利用できる弁護補償の幅が大幅に狭まる可能性があると懸念している。

 この訴訟の根底にあるのは、Meta社が「意図的に強迫的な利用、ひいては依存症につながるような機能をプラットフォームに組み込んだ」と主張する数千件の訴訟(最近のカリフォルニア州の訴訟を含む)である。これには、無限スクロール、アルゴリズムによる推奨、頻繁な通知、自動再生される動画など、ユーザーを常に引きつけるソーシャルメディア機能が含まれる。訴訟では、これらの機能が依存症や、うつ病、摂食障害、自傷行為などの害、特に未成年者への影響を引き起こしたと主張されている。Meta社は訴訟に対応するため、賠償責任保険会社に弁護費用の補償を求めたが、保険会社は訴訟を起こし、依存症に関する訴訟の弁護費用を負担する義務はないとの判決を求めた。

 ユーザーエクスペリエンスの向上と価値提供のために、アルゴリズム、通知、報酬システムなど、エンゲージメント重視の設計に依存している企業は、特にこの判決に注意を払う必要がある。この判決は、商業賠償責任保険会社がこのようなケースで請求を全面的に拒否できることを意味し、長期にわたる補償紛争の可能性を高めた。

 デラウェア州の判決はソーシャルメディアプラットフォームに対する訴訟から生じたものだが、その影響はテクノロジー企業に限ったものではない。ソーシャルメディアプラットフォーム、ゲーム会社、ストリーミングサービス、消費財メーカー、小売業者、デジタル投資プラットフォームなど、あらゆる業界が潜在的なリスクに直面している。これらの業界のリスクマネジャーは、保険適用範囲を見直し、保険適用に関する紛争に備え、自己資金による弁護計画を立てる必要に迫られる。

弁護債務に関する不確実性

 カリフォルニア州の現行法では、弁護費用についての債務は広範であり、訴状に記載された主張に基づくものであれば保険が適用される。しかし、デラウェア州の裁判所は異なるアプローチを取り、多数の訴訟が過失によるものと主張されていたにもかかわらず、当該行為を故意によるものと認定した。

 この判決は、原告の訴状における「意図的に設計された中毒性アルゴリズム」の主張に重点を置き、他の裁判所が、「保険適用」基準の重要度を低下させる可能性を示唆している。原告が過失を主張しつつも、デザインの特徴が意図的に中毒性を持つように設計されていると主張された場合、企業は、保険適用を求める事故や事象が発生したかどうかをめぐって、激しい保険適用争いに直面することになりそうだ。この判決が広く採用されれば、「過失に基づく請求が防御のトリガーとなる」という前提が疑問視されることになるだろう。

実務上の影響

 保険適用拒否は、カリフォルニア州法の新たな判例と解釈を生み出し、その実務上の影響は重大である。顧客エンゲージメント主導型の製品訴訟に直面している企業は、防御費用の保険適用を求める際に、保険会社から即座に抵抗を受ける可能性がある。かつて防御費用を負担または払い戻した保険会社が、敵対的な立場を取る可能性があり、企業は訴訟開始時に多額の訴訟費用を負担せざるを得なくなるかもしれない。

 保険契約の条項や管轄区域によっては、保険会社は被保険者に対し、既に支払った弁護費用(の払い戻し)を請求する可能性がある。このことは、企業の経営陣やリスク管理者にとって、既存の保険制度の信頼性に関する疑問を引き起こす。

より広範な訴訟動向

「ハートフォードv. Meta社」の判決は、ソーシャルメディア企業だけでなく、ユーザーエンゲージメントを収益化するあらゆる企業にまで影響を及ぼす可能性がある。実際、Meta社は反対意見書の中で、保険会社の主張は「意図的または予見不可能な損害を最終的に引き起こすあらゆる『(保険会社の)意図的な選択』が保険を無効にする」ことを意味し、そのような主張は「ユーザーエンゲージメントの向上という合理的かつ一般的な目標を持つあらゆるサービスプロバイダーに等しく適用される」と警告を与えている。

 この論理は、ルートボックス*1)、デイリーログイン報酬*2)、ユーザーエンゲージメントを高めるために設計されたアルゴリズムによるマッチングシステムといった、意図的な設計選択にも適用できる。原告側は、意図的な製品設計やエンゲージメント戦略を根拠に訴訟を起こしており、保険会社側は、こうした行為は偶発的な事象の範囲外であると主張して反論している。

*1)訳者注:ルートボックス(loot boxes)」と呼ばれるものは、日本では一般的に「ガチャ」や「ランダム型アイテム提供方式」と呼ばれているシステムのこと。プレイヤーがゲーム内の仮想通貨や現実のお金(課金)を使って購入する「中身がランダムな箱」である。
*2)訳者注:「デイリーログイン報酬(daily login rewards)」とは、日本のゲームやアプリで広く使われている「ログインボーナス(通称:ログボ)」のこと。ユーザーが1日に1回、その日初めてアプリを起動(ログイン)した際に、運営からゲーム内通貨、消費アイテム、限定キャラクターなどの「報酬」が自動的にプレゼントされる。

 ロイヤルティアプリ*)を提供する小売業者、ゲーム化された取引インターフェースを備えた投資プラットフォーム、一気見を前提としたストリーミングサービスなどは、潜在的に脆弱であり、様々な消費財メーカーは、製品の製造および目的に関して、中毒性デザインに関する訴訟に直面する可能性がある。継続的な使用や習慣形成を促すように設計されたとされる製品を製造する企業は、同様の保険適用上の課題に直面するであろう。

*)訳者注:「ロイヤルティアプリ(Loyalty App)」とは、企業が自社の「顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対する愛着・信頼・忠誠度)」を高めるために提供するスマートフォンアプリのこと。日本では、一般的に「公式ポイントアプリ」「会員証アプリ」「スタンプカードアプリ」などと呼ばれているものがこれに該当する。

企業が今すぐできること

 近い将来、企業は、訴訟における弁護拒否、意図的な行為を理由とする権利留保通知、既に支払った弁護費用の返還要求といった事態に直面する可能性がある。

 これらの問題は、組織の最高レベルで急速に表面化するであろう。取締役会、CFO、法務部長は、以下の点を自問自答する必要がある。

  • 弁護費用の返還を強いられる可能性はあるか?
  • この判決は当社に適用されるか?この判決は控訴審で維持されるのか?
  • 当社のリスク管理チームは現在、どのような対策を講じているのか?
リスクマネジャーは以下の対策を講じること:

保険契約書の収集と見直し:保険契約書全体を綿密に精査し、特約や修正条項を含め、補償範囲を明確にせよ。特に、故意の行為、予期された、または意図された傷害、および製品関連の免責条項に重点を置くこと。

補償紛争へ備えよ:保険金支払拒否や償還請求に対する対応手順を確立し、反論計画を策定せよ。保険会社への請求内容の提示方法によって補償結果が大きく左右されるため、早期に状況をコントロールすることが重要だ。

自己資金による弁護計画:弁護費用を自己負担する計画を立て、償還請求権を保持しつつ、弁護費用を慎重に対跡・配分せよ。

ブローカーおよび保険会社との連携:ブローカーおよび引受担当者と対話を開始し、補償範囲を維持する方法について協議せよ。

社内連携:経営陣からの質問に適切に対応できるよう、法務、リスク管理、財務チーム間で連携を図れ。

 Meta社の再審請求は係争中であり、判決の先例的価値は不透明だが、デラウェア州の判決は企業にとって新たな検討課題を生み出した。たとえ控訴審で判決が限定的または覆されたとしても、保険会社は既にその論理を根拠に弁護費用の支払いを拒否しているからである。企業は、より積極的な保険金請求紛争と、自己資金による弁護の可能性に備えるべきである。

 

トピック
保険、法的リスク、リスクマネジメント


注意事項:この記事は、“Insurance Coverage Fallout in the Wake of Social Media Addiction Ruling,”
Michael Salimbene, Benjamin Fliegel | May 7, 2026, RIMS Risk Management Site (https://www.rmmagazine.com/articles/article/2026/05/07/insurance-coverage-fallout-in-the-wake-of-social-media-addiction-ruling)をRIMS日本支部が翻訳したものであり、原文と訳文に差異がある場合には原文を優先します。

マイケル・サリンベネ氏は、リード・スミス法律事務所のライフサイエンス・ヘルスケア業界グループのパートナーであり、製造物責任訴訟を専門家。ベンジャミン・フリーゲル氏は、リード・スミス法律事務所ロサンゼルスオフィスのマネージングパートナーを務める戦略的訴訟弁護士。
鈴木英夫はRIMS日本支部主席研究員。