政治リスクに保険子会社を活用する

政治リスクに保険子会社を活用する

ランディー・サドラー


他の種類のリスクほど頻繁に議論されることはないが、政治的リスクは大企業の経営者を悩ませる現実的かつ顕著な関心事項であり、中小・中堅企業に現実的な脅威を与える可能性がある。

世界経済フォーラムの「グローバル・リスク・レポート2019」では、地政学的・地経済的な緊張の高まりが、今年最も緊急なリスクとされている。 デロイトの2018年第4四半期北米CFO信号調査によると、最高財務責任者(CFO)の最大の心配はこのことを反映しており、貿易政策に特に懸念を持ち、政治的脅威に移行しているようである。 最も影響力のある企業147のCFOのうち、3分の2は米国が中国に新たな貿易制限を課すことを予想しているが、米中政策がより有利になることを期待しているのはわずか8%である。 実際、CFOの40%は関税が原料価格を大幅に引き上げると予想しており、自社製品・サービス対する需要が引き上がるとは考えるのは6%しかいない。

政治リスクは複数の経路で事業に影響を与える可能性がある。 例えば、政治的リスクは、主要な供給者を遮断したり、輸入商品、部品または完成品の価格を押し上げたりする可能性がある。 また、政治的リスクによっては、一部の事業の市場全体が閉鎖される可能性もある。

最近、ドナルド・トランプ大統領は米国とメキシコの国境を閉鎖するとの脅しを表明したが、これは明らかに多くの企業に大きな影響を与えるだろう。 例えば、部品や完成品のコストを押し上げるような製品を米国に持ち込むために、製品をカナダに出荷する必要があるかもしれない。 メキシコで製品を販売している米国企業の中には、少なくとも一時的には市場を完全に閉鎖する企業もあるかもしれない。メキシコ政府が米国製品の規制に対応することが予想されるからである。

歴史的に、政治的政策は、しばしば、事業に重大な意図的または意図しない影響を与えることがある。 アフォーダブル・ケア法の最大の支持者は、この法律は例えば小規模企業に役立つだろうと述べた。 しかし、この法律のさまざまな部分に関連した多くの要件、および新たな税金や手数料によって多くの企業は順法上での負担を課されることになり、最終的には、企業を支援するのではなく、事業によっては損害を与えることになった。

環境規制の面では、米国環境保護庁と運輸省国道交通安全局が、中型トレーラー、大型ピックアップ、バンなどの中・大型車両の新燃費基準を策定した。 しかし、車の大きさによっては、価格に15,000ドルも加算される可能性がある。 新しい基準を満たすことができなかったトラックメーカーは罰金を支払わなければならず、一部の企業は事業から撤退せざるを得なかった。

国際貿易政策に関しては、トランプ政権が米国の緊密な同盟国を含む一連の貿易相手国に対する関税を発表したことをきっかけに、米国の輸出に対する報復措置が相次いだ。 関税は大きな影響をもたらし、直接的に対象とされていない企業や産業にも影響を与えることが多い。 このため、サプライチェーンや原材料価格、そして国境を越えた貿易の可能性に負担をかける。

企業は州の税法、連邦税の見直し、最低賃金政策、移民法、サイバーセキュリティ法、認可要件、金利など、広い範囲に及ぶ政治的出来事から生じてくる、明白な結果に直面する。

政治リスクへの備え

企業は、多角化と十分に準備された危機管理計画を通じて、政治リスクの影響を最小限に抑えることができる。 しかし、これほど明確ではないが、潜在的に強力なアプローチは、政治リスクに対して保険をかけることである。

多くの商業保険会社は政治リスクのための保険を提供しているが、商業保険は、必ずしも多くの企業にとっては最良の手段ではないかもしれない。 第一に、保険は埋没費用である。 保険料の支払いは安心感を与えるが、保険金請求が実現できなければ永遠に失われてしまう。また保険金請求は、何か悪いことが起こったことを意味するので、企業としては保険金請求に二の足を踏む。 第二に、商業保険はしばしば免責条項で満たされている。 大規模な損失を被ったにかかわらず、商業保険会社が免責条項に基づき保険金請求を拒否するのを経験することほど悪いことは、めったにない。

政治リスク保険とありうる免責事項について考える場合、事業主、CEO、CFO、リスク管理者は、以下のリスクの脅威を評価し、保険の補償範囲として必要かどうかを判断すべきである。

  • 政治的暴力と財産の破壊、サプライチェーンの破壊、市場の混乱
  • 政府または準政府機関による資産差押え
  • 政府による契約の無効または変更
  • 政府からの債権または担保の要求
  • 実質的な損失をもたらす通貨の崩壊または変動
  • 政府の行為および上記のいずれかによる事業の中断

このような事態が発生した場合には、保険が確実に適用されるようにすることが重要である。それゆえに、自社を政治リスクから守ろうとする企業にとっては、保険子会社(キャプティブ)は強力な代替手段となるかもしれない。

保険子会社とは、単純に言えば、保険会社の全部または一部を所有するという選択である。保険子会社は、免許を受けた保険会社であり、標準的な商業保険よりも幅広い保険契約を発行できることが多い。 政治リスクのような通常でない脅威がある場合、保険金を実際に受け取るためには、より少ない免責条件で、より広い範囲をカバーすることが鍵となる。

多くの場合、政治的な出来事による事業中断や収入損失は最も損害を与える。 保険子会社は免許を受けた保険会社であるため、商業再保険や再保険のリスク・プールにアクセスでき、潜在的な政治リスクからの損失の影響を分散することができる。

また、保険子会社は保険料を受け取り、損失準備金として積み立てることもできる。 損失準備金は、保険数理計算および承認を必要とする。 保険子会社には損失準備金に対する課税を繰り延べるという利点があり、予期せぬ事態に備えて、より大きな基金に投資し、基金を成長させることができる。

さらに、商業保険料とは異なり、政治リスクが顕在化しない場合には、保険子会社に支払われた保険料をその保険子会社の利益として留保することができる。

政治リスクの性質とそれを取り巻く複雑さは、リスク軽減と多角化を超えた解決策を見出すことを必要とさせることが多い。 商業保険はリスクの一部を移転するのに役立つかもしれないが、埋没費用との潜在的なトレードオフ、補償範囲の狭さ、潜在的な保険契約上の免責事項を検討して、保険子会社がより包括的なアプローチを提供してくれるかを評価することが重要である。

注意事項:本翻訳は、“Using Captives to Insure Against Political Risk”(RIMSウェブサイト「Weekend Read」(2021年8月21日号)[初出は2019年1月号『Risk Management』誌、])をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

ランディー・サドラーはCICサービスLLC社の社長。自社保険プログラムに関して直接、企業オーナー、最高経営責任者、最高財務責任者にコンサルタント業務を行う。