【Web特別版】サプライチェーンにおける法的リスクを管理する
ニック・リーズ[*]
サプライチェーンへの最近の脅威には、ブレグジット投票やドナルド・トランプ大統領の出現、それに伴う関税や障壁、貿易紛争、スエズ運河の封鎖、長年続いてきた紛争の突然の再燃、予測不可能で危険な気候の変化、世界中で発生している壊滅的な地震や火山の噴火など、可能性が極めて低いと思われていた、あるいは全く前触れなしにやってくる地球規模の破壊的な出来事が含まれる。
現代における最大の混乱はCOVID-19であり、これは社会的、経済的あるいは文化的景観を一変させ、国内外のサプライチェーンに大規模な問題を引き起こしている。世界的なワクチン接種プログラムがまだ発展途上であり、地球上のあちらこちらで新種の変異株が広がっていることから、この感染力の高いウイルスは、輸送ラインや港湾などの拠点で、遅延や不確実性を引き起こし続けると考えられている。このことは企業にとっては、経営上および商業上の困難がしばらく続く可能性が高いことを意味している。
企業の対応
企業が流通や物流に対する予期せぬ中断を軽減するには、いくつかの方法がある。企業は日常業務と即時の「消火」対応の両方をカバーする危機管理計画を作成し、実行すべきである。次に、特に契約上または財務上の違反や債務不履行が発生した場合、商業上の取引先や(潜在的な)金融債権者にどのように対処するのが最善であるかを検討しなければならない。さらに、レジリエンスの構築を含め、将来に向けた組織の安定化に取り組むべきである。
事業的には、流動性を維持する、物流の手配や保管能力に影響を与える可能性のある(ジャストインタイムのサプライチェーン運営ではなく)在庫を強化する、重要な供給品に対する特定の供給元や原産国への過度の依存を低減または排除する、そして可能であれば海岸または海岸近くにサプライチェーン拠点を設けることを検討することも含まれる。
最後に、企業は供給や流通を中断または停止させるほどの重大な事象が発生する場合に備えて、事業中断に関する保険の手配と法的保護の両方を定期的に見直すべきである。
無為のコスト
サプライチェーンは契約によって動かされる。つまり商品の購入、製造、販売、輸送のプロセスは、最終的にはすべて法的な契約関係によって支えられている。サプライチェーンの活動がスムーズに行われ、ビジネスが順調なときは、商業当事者は日常業務に全力を注ぐことができる。しかし、問題が発生し、緊張したサプライチェーンに対して利用可能な法的手段を検討する必要が生じた場合、当事者が法律顧問と効率的かつ効果的に協力し、特定の状況に応じてどの契約および法的メカニズムを検討すべきか理解しておくために、事前に計画を立てておくことは有益である。
取引関係を支える法的な取り決めを誰も考えていない場合、法的な緊張に対処し、それに適用するための適切な最新の文書類を(またはどのような文書類であれ)持っていないことによって、自社が危険にさらされていることに気づくという、驚きに直面することになる。
最終的には、良好な事業上の成果を達成するのに役立つ法的手段を持つことと、救済策を全く持たないこととの違いによって、大きな違いが生じるということである。もたらす可能性がある。法的な裏付けのない無防備な事業上の立場に置かれたままでは、争いのある状況において満足のいく結果を達成するという企業の能力を弱めてしまう。
法的および実務的な検討
事業者による、商業上の取り決めや財政上の実行可能性に与える大混乱の影響評価の一環として、契約や慣習法上の救済によって、再交渉できる柔軟性と契約を解除できる能力、契約履行、そして紛争を回避・緩和できる能力を発揮できるかどうかが鍵となる。
契約および商取引関係のどこに柔軟性や交渉の余地があるのか、どこを攻めたらいいのか、またはどこに限界があるのかを見極めるために、すべての主要な契約の見直しを行う。攻めうるところが存在する場合、取引信用や信用リスク保険契約に基づく請求に関連するか否かを問わず、企業は契約の解除や停止、契約の結び直しや財務のやり直しなど、利用可能な選択肢について専門家のアドバイスを受けるべきである。
契約見直しの一環として、不可抗力条項の存在および条件を確認する。不可抗力条項によって、1人または複数の当事者は契約履行から免除されうる。不可抗力条項を行使したい、あるいは不可抗力の主張の妥当性を確認したいと考える企業は、契約で指定された通知、期限、その他の要件を確実に遵守し、危機の進展に伴って関連するすべての事実上および経済的な証拠となる記録を保持するべきである。
不可抗力が適用されない場合、企業は契約を効果的に終了させるために履行不能に関する慣習法の原則が役立つかどうかについて、専門家のアドバイスを受けるべきである。不可抗力や履行不能を主張したり、受けたりするときには、場合によっては保険契約に影響を与える可能性があるため、当事者は様々な保険契約を確認すべきである。特に、当事者はどんな事前通知要件があるのかも確認すべきである。
企業は、柔軟性及び/又は商業的支援を提供する可能性のある他の契約条項の存在及び関連事項を確立すべきである。これらの条項には、契約やリースを早期に解除する(網羅的ではない)ための中断条項、没収条項、破産条項、価格調整条項、変動条項/口頭での変更不可条項、重大な不利益変更条項などが含まれる。
商業上の混乱、不確実性、財務的困難、契約不履行などは、すべて紛争を引き起こす可能性がある。それゆえ、企業は約定の見直しを行い、自社(および主要な取引相手)の義務と責任の範囲を確実に理解する必要がある。ここでいう重要な条項とは保証、補償、履行保証書、責任の制限・排除条項、およびあらゆる努力義務条項などを含む。
可能かつ財務的に実行可能な場合には、当事者は影響を受けた契約上の義務を履行する、および/または、あらゆる損失や損害を軽減するための代替方法を検討すべきである。また、紛争が発生した場合に依拠する可能性のあるすべての事実上および財務上の証拠について、明確な記録を保持すべきである。紛争が発生した場合、当事者は関連する契約に強制的な紛争解決条項が含まれているかどうかを確認する必要がある。効果的な条項があれば、当事者は事前に合意された解決ルートに従うことが求められ、これにより、主要な問題が解決されるべきかどうか、どのように解決されるべきかについて、潜在的な二次的紛争を防ぐことができる。また戦術的な駆け引きの余地を最小限に抑え(それゆえに商業的関係を維持するのに役立つ)、正式な訴訟に対処するためにかかる時間とコストが、あくまでも最後の手段になることを確保する。
企業は従業員、供給業者、顧客、その他の主要な取引先との間でオープンなコミュニケーション経路を確保する必要がある。対話することで、ビジネスの混乱を最小限に抑えることができ、多くの場合、紛争を回避したり、効果的に解決したりすることで、商業的関係と現金の両方を節約することができる。
訴訟へと向かう当事者
一般的に、商取引の当事者は合意に基づいて従順に意見の相違を解決する傾向がある。しかし、長期間にわたって一方が何度も譲歩してきた場合、彼らは、価値を手放すという下り坂を続けることに抵抗を感じ、代わりに法律に頼るようになるかもしれない。訴訟は、主に当事者間の約束違反に対する金銭的補償を求めるために用いられる。また、当事者は一方が抵抗している活動を強制的に実行させたり、逆に他方に損害を与える可能性のある特定の行動の実行させないために、訴訟に訴えることもある。
これらは、裁判所の判断を必要とする問題である。裁判所は、交渉による協力がもはや実行可能な選択肢ではないところまで関係がこじれてしまった人には利用できない法的な強制力を持っている。
専門家の助言を得る
企業は、可能性は低くても不利なイベントを予測し、それに対処するためのより良い危機対策を準備することができる。経験豊富な商事紛争解決チームは、リスク管理の観点から、あるいは/または紛争解決のために、不確実な時代や壊滅的とも思えるイベントをうまく乗り切るために企業を支援することができる。
トピックス
気候変動、COVID-19、災害復旧、経済、環境リスク、法的リスク、自然災害、パンデミック、サプライチェーン
注意事項: 本翻訳は“Managing Supply Chain Legal Risks”, Risk Management Site (https://www.rmmagazine.com/articles/article/2021/10/26/managing-legal-supply-chain-risks),October, 2021,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
ニック・リーズはウォーカー・モリス法律事務所の商業訴訟専門の弁護士。貿易関係、取引、従業員、銀行金融、業務上の過失、不正に関する訴訟での経験を積んでいる。