【Web特別版】効果的なコンプライアンス・プログラムを支える文化を監督する(2021年10月号)

【Web特別版】効果的なコンプライアンス・プログラムを支える文化を監督する

ジョン・アーバニティス、マイケル・ワット[*]


多くの企業がコンプライアンスに関する方針と手順をもち、研修を適切に実施し、経営者からの指導も受けているが、それでもコンプライアンス上の失敗を経験している。多くの場合、これらの失敗は議論だけするが、行動ができないとう文化の結果である。

コンプライアンス・プログラムの評価に関する米国司法省(DOJ)の2020年検察官向けガイドラインによれば、倫理的な文化は、効果的な企業コンプライアンス・プログラムの出発点となっている。コンプライアンスとその実施に責任を持つ従業員は、常に自社の組織文化を監視し評価しなければならない。また、従業員全員が企業のコンプライアンス期待を理解し実行しなければならず、企業の日常業務のあらゆる面で、確実にこれらの目標と目的が前面にあって中心に位置していなければならない。効果的なコンプライアンス・プログラムを構築することによって、組織は最終的に潜在的な法的リスクや名声リスクから、組織を守る規制当局の期待に応えることができる。

コンプライアンス文化の構築

規制措置に直面するか、あるいはリスク評価を実施したために、コンプライアンスの文化が弱いことに気づいた組織は長い道のりを歩むことになる。そうした組織は、トップやミドルからの言葉、教育、資源投入、インセンティブ、そして対応・是正の順番で取り組むことになる。

トップやミドルからの言葉: 次第にコンプライアンスの専門家にとって決まり文句になっているが、トップと従業員の間に多くの階層があるとき、「トップからの言葉」は失敗する傾向にある。メッセージは途中で消えてしまう。そのため、上級幹部、中間管理者、第一線の管理者は、自分たちの言葉やコミットメントに整合性を持たせる必要がある。

最高コンプライアンス責任者(CCO)は戦略的意思決定への関与を含めて、執行委員会や取締役会へ直接アクセスし支援を得るべきである。定期的に取締役会に最新情報を提供する、適切なスタッフを配置したコンプライアンス機能は有効であるが、実際に取締役を務めることが、CCOの文化への積極的な影響力を行使する最善の方法である。

教育: 内部スタッフと外部パートナーの教育には、道徳的にあいまいな状況に対処して意思決定を検証する機会も含まれる。現実的なシナリオを盛り込みカスタマイズされた研修は、エンパワーされた従業員とコンプライアンスの文化の育成につながる。

オンライン訓練のプラットフォームは全従業員を教育し、コンプライアンス証明書を受け取るのに有効かつ費用対効果も高いが、再訓練セッションは退屈で、不便なものかもしれない。従業員が企業行動規範を読んで理解したことを、自動的に証明することも同様である。また、注意事項や条件を読まないで、ソーシャルメディアのウエッブサイトで「同意します」をクリックするのも同様である。クロール社の2021年贈収賄防止・汚職ベンチマーキング報告書によると、パンデミックが続いているにもかかわらず、コンプライアンス責任者は可能なときには、対面研修のほうが良いと引き続き考えている。

資源投入: 残念ながら、多くのコンプライアンス専門家とその部門は、要求を満たすための必要最低限の予算しか受け取っていない。しかし、資源投入の観点からみて最も強力な推進力は、コンプライアンス・プログラムを継続的に改善するために、経営陣が戦略的投資を行うことである。手抜きをしないようにするだけでは、不十分である。

インセンティブ: 特に独自の財務上の課題がある時には、組織は倫理や誠実さを考慮せずに、達成できない業績目標を設定するが、それは規制当局にとって格好のターゲットになる。まだ誠実な文化を築いている最中の組織は、非倫理的な行動をすることにプレッシャーを感じていない従業員を抱えているにもかかわらず、倫理的な行動へのインセンティブを与えていない。したがって、最も強力な文化とは、管理者を彼のチームの誠実さで評価することを含めて、業績評価や昇進指針に誠実さを、意味を明確にして組み込んでいることである。

対応と是正: コンプライアンス文化の本当の試金石は、企業が倫理違反に遭遇したときである。そうしたときに、むしろ積極的に改善する努力を試みているコンプライアンス・プログラムが、後退を見せたことはほとんどない。企業はそうした対応方針を持っているのか、あるいは状況に応じて全面的に対応しているのか。効果的な方針とは、組織が一貫して対応していることを従業員に確信させ、規制当局へ適切に報告することを求め、内部告発制度を機能させつつ情報を上にあげるルートを詳述しているものである。

是正段階で、最も強固なコンプライアンス文化とは、取締役会が執行委員会に説明責任を負わせているものである。甚だしい違反については、内部で徹底的に調査し、意図的にその結果をプロセスや統制の改善に活用することである。

実施上の障害

強固な倫理文化への道を歩み始めた組織は、多くの重要な課題に直面する。コンプライアンス部門の多くは、自社の文化を改善し、問題を真剣に受け止めるための努力を示すように規制当局から求められていると、プレッシャーを感じている。このプレッシャーによって、小さな方針違反に対して過剰反応を引き起こして、真の文化的転換が実現さていないのに、自分たちが有効なプログラムを持っていることを証明しようとするかもしれない。また、自らの文化を有機的に改善しようとする努力は、企業内の別の人にとっては、不誠実あるいは自分本位であると見えるかもしれない。執行委員会、経営幹部、中間管理からの同意は、これらの問題の防止に役立つかもしれない。

コンプライアンス部門はまた、新たな規制、限られた予算や目先の問題への対応など、すでに過大な負荷をかけられているかもしれない。コンプライアンス部門に文化のような現実的な問題に対処するのに十分な処理能力を持たせることができるといった、CCOの成功物語はめったにあるわけではない。

最後に、倫理的な変革を推進するためには、資格を持ち、倫理的で、情熱的なコンプライアンス専門家が必要である。この人材は自社のビジネスでの幅広い経験を理解でき、実践、モチベーション、インセンティブを理解することができなければならない。それができれば、彼らは事業を成功させ、リーダーシップを発揮し、規制当局を満足させることができる。

組織の従業員がコンプライアンスの文化にコミットしていれば、業務上およびコンプライアンス上の目標と目的を達成することが可能である。組織とその従業員がそのコンプライアンス責任を認識することは不可欠であるが、彼らがなぜ日々倫理的でコンプライアンスに則って活動しなければならないのかを理解することも同様に重要である。

トピックス
コンプライアンス、リーガル・リスク、規制、レピュテーション・リスク、リスク評>価


注意事項: 本翻訳は“Curating a Culture that Supports Effective Compliance Programs”, Risk Management Site (https://www.rmmagazine.com/articles/article//2021/10/28/curating-a-culture-that-supports-effective-compliance-programs),October, 2021,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

ジョン・アーバニティスはクロール社のコンプライアンス・リスク・アンド・ディリジェンス実務担当の業務執行取締役。マイケル・ワットは同社同実務担当の副業務執行取締役。