メジャーリーグ野球から学ぶ職場復帰
ロバート(ボブ)ワトソン[*]
米国では、今夏、パンデミックが続く中、調整された状況の下でプロスポーツが再開された。この再開は、COVID-19が猛威を振るう中、他の多くの業界が事業の再開時に直面するのと同様の運営上の課題を提起している。このことは、他のほとんどの企業には利用できないほどの広範な資源を持っているにもかかわらず、大きな課題を経験したメジャーリーグ・ベースボール(MLB)において特に顕著であった。
当初の予定より4ヶ月近く遅れ、選手やスタッフの安全を確保しながらシーズンをどのように実施するか長期間にわたって交渉し、計画した結果、同リーグは一チーム当たりにつき60試合(162試合から)の短縮シーズンを決定し、無観客で実施した。しかし、開幕を7月23日に遅らせたとはいうものの、個人用保護具の入手制限や検査結果の遅れなど、他の再開組織と同じく多くの課題に直面していた。
全米バスケットボール協会(NBA)や全米ホッケーリーグ(NHL)などは、ウイルスの拡散を制限しながらゲームを行う「バブル(わずかな変化)」アプローチを採用した。これには、選手とスタッフを隔離し、すべての試合を集中管理された施設で行い、ほとんどの移動やその他の潜在的な接触を禁止することが含まれていた。MLBはそうではなく、選手やスタッフに日常生活をさせ、比較的自由に移動できるようにした。
最終的には、非バブルアプローチの影響がシーズンの最大の課題となった。序盤、マイアミ・マーリンズの21人の選手と監督、セントルイス・カージナルスの13人のメンバーを含む2チームがクラスターを引き起こした。このクラスターだけで30試合の延期を余儀なくされ、シーズン開始とほぼ同時にシーズン終了を求める声も多く聞かれた。最終的にシーズンは続行されたが、シンシナティ・レッズ、ニューヨーク・メッツ、オークランド・アスレチックス、サンフランシスコ・ジャイアンツなど他の選手やスタッフがその後の数週間で陽性となってしまった。9月中旬までに、コロナウイルス感染のためにリーグ全体で計43試合が延期された。
COVID-19がメジャーリーグの修正再開でさえ妨げる可能性があるというのであれば、中小企業、教育機関、その他の組織は、どのようにして安全に通常業務に復帰することを望めるのだろうか。組織は、このパンデミックを通して、自らの戦略を綿密に計画し、厳格に実行し、継続的に再評価しなければならない。
メジャーリーグの再開を踏まえ、企業がパンデミック時に緊急時対応戦略を強化し、業務を調整するための重要な教訓は、次のようになる。
備えあれば憂いなし
安全に業務を再開するためには、不測の事態に備えておくことが重要である。メジャーリーグは、シーズンをどのようにスタートさせ、選手やスタッフの健康と安全を守るために多くのことを考え、計画を立て、伝統的なゲームのやり方に幅広い変更を導入した。リーグはまた、手洗い、クラブハウスやダグアウトでの行動、社会的な距離の維持、体温や症状のチェックについて、新しいガイドラインを提示した。リーグ当局はさらに細部まで掘り下げ、昔からの野球の習慣に関する安全指令を発行した。選手が紙タバコやヒマワリの種を吐く、投手が投球前に指をなめる、サヨナラホームランを打った打者をホームプレート上で大勢の選手で手荒く祝福する、これらはすべて禁止された。
他の組織は、MLBからヒントを得て、まず安全衛生のあらゆる側面を考慮し、業務のあらゆる側面に対応する仕事の流れや手順を作ることができる。それはおそらく、従業員の業務マニュアルや緊急時対応計画の追加を意味する。MLBのCOVID-19プロトコル・マニュアルは100ページを超えているが、貴社のマニュアルはさらに広範なものになる可能性がある。
メジャーリーグはシーズン開始前に、選手やスタッフの健康と安全を守り、試合の継続を維持するために、さまざまな角度から起こりうる事象を検討した。同様に、企業は事業の継続性を確保しつつ、従業員、顧客、ビジネスパートナーを保護するために、緊急時の計画に組み込むことができる手順と業務プロセスを慎重に開発すべきである。このプロセスの主なステップには、以下のものがある。
- 潜在的な緊急時の脅威を特定するためのリスク評価を実施する
- インシデント対応に関わるキーパーソンを特定する
- 関係する利害関係者と地方および州の機関を特定する
- パンデミック対応した特定の計画、手続き、手順を作成する
- 対応と連絡を調整するためのインシデント命令センターを設置する
- 複数の場所にわたる危機的出来事への対応を調整するための手順を開発する
- 保険目的のインシデント報告書や書式など、使用するすべての書式を集める。
- 法執行機関、消防、医療/病院、公衆衛生を含むすべてのコミュニティの利害関係者から、準備計画に必要なものを組み入れる。
職場や学校のキャンパスに戻っても、スポーツ大会のような計画的なイベントでも、自然災害や人災のような計画外の出来事でも、人々の安全を守るためには、準備、状況認識、最新の共通業務の状況は不可欠である。
公衆衛生や緊急事態管理機関と同様に、多くの企業では、重要なインシデント/緊急事態管理プラットフォームを使用しており、リーダーや主要な利害関係者が適切な予防措置を講じ、人、活動、およびインシデントを監視できるようになっている。これにより、組織はより迅速に対応し、その場でより適切な判断を下し、危機の可能性や深刻度を軽減するために、より効果的に対応できるようになる。また、緊急事態管理技術により、組織は物流、人員、資源を管理することができ、いつでも包括的な共通業務運用状況を確認し、より効果的に管理することができる。
柔軟であれ
ジャーリーグもまた、営業再開に向けてかなり柔軟なアプローチを取った。コロナウイルスの症例数が増加した結果、リーグは試合のスケジュールを変更し、シーズンが進むにつれて手順をさらに変更した。例えば、延期されたゲームを補うために、リーグは、シーズン中盤にチームのスケジュールを調整し、より多くのダブルヘッダーを編成した。同時に、ダブルヘッダーゲームの長さを9回から7回に短縮し、連続して2ゲームを幾度となく繰り返す選手の肉体的な負担を減らすことにも成功した。
他の組織も同様に、状況が急変しても対応できるように柔軟性を保ち、新しい対策を迅速に実行する意思を持たなければならない。こうしたことは、主要な意思決定者と緊急時対応チームのメンバーが、より良い意思疎通と共同作業を行うために同じ情報とデータを十分に持っていて、必要に応じてシステムを適応させる能力を持っている場合には、はるかに簡単になる。
緊急管理技術プラットフォームは、職場復帰のための複雑な作業を整理・誘導するのに役立つ。これには、組織に合わせて、コロナウイルス症例の管理に特有な仕事の流れ(接触者追跡および個別症例対応の効果的実行)を含めるべきである。また、プラットフォームは拡張性があり、カスタマイズ可能であるべきであり、個人、施設の状況、個人用保護具(PPE)の供給、仕事の割り当て、および進行中のプロセスと手順を効果的に監視するのに役立つものでなければならない。
パンデミックは多くのくせ玉を投げてくるので、野球のシーズン、そしてその他のスポーツ・シーズンも、最終的にどのようになるのかは依然として不明である。もちろん、野球やビジネスの運営がこれまでとは異なるものになることは間違いない。国がCOVID-19に引き続き立ち向かことに対応して、準備と柔軟性に焦点を当てることによって、すべての組織は成功する機会を向上させうる。
注意事項:本翻訳は“Return-to-Work Lessons from Major League Baseball”, Risk Management,October, 2020 pp.4-7をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
[*] 緊急指令・対策技術のジュヴェア社の会長兼代表取締役社長