【Web特別版】報復からビジネスを守る(2023年2月号)

【Web特別版】報復からビジネスを守る

ランディ・サドラー[*]


WEB特別版1月号表紙

何人かに聞いた話によると、米国では分裂が増加しているようである。ニュースの見出しからソーシャルメディア、さらには庭の看板に至るまで、アメリカ人は中絶から銃規制、学生の債務免除に至るまで、さまざまな話題について異なる党派的見解を表明している。一般市民にとって、政治的見解や価値観をオープンに発信することは、友情関係の面で犠牲を払うことがある。しかし、企業にとっては、政治的見解を表明することは、取り返しのつかない損失につながる可能性がある。これは、たとえ企業が「政治や論争的な問題には関わらない」という厳格な意思を持っていたとしても、同じことが起こり得る。今日の環境では、中立を保つためのあらゆる努力にかかわらず、論争的な問題があなたのビジネスに迫ってくるかもしれない。

これが企業を困難な状況におくことになる。一方では、企業は沈黙を守り、政治や価値観に関して目立たないよう行動をとることも可能である。これは良い行動方針のように思われるかもしれないが、問題は、消費者が経営者に発言することを望んでいることを示す調査結果である。エデルマンが実施した「政治における企業の役割」に関する調査によると、回答者の86%は、企業のリーダーが社会の主要な問題に公に関与することを期待している。そして、それは消費者だけではない。多くの場合、従業員がリーダーにプレッシャーをかけ、味方につけるのである。このように、企業がどのような行動方針を取るにせよ、声を出すか出さないかにかかわらず、引き起こされるであろう影響を認識することが重要である。

ボイコットや破壊行為

驚くほど多くの消費者が、自身の価値観を反映していないブランドをボイコットするだろう。レンディング・ツリーの調査によると、現在、アメリカ人の4人に1人が企業や製品のボイコットをしている。ボイコットされるのは製品や企業だけではない。アメリカ人のほぼ4分の1が、法律や政策に賛同できないとして、特定の州や国に旅行しないことを選択している。これは、世帯年収が10万ドル以上の人々では、35%に跳ね上がる。

その一例として、ファストフードレストランチェーンのチックフィレイが挙げられる。2012年6月、チックフィレイのCEOであるダン・キャシーが同性婚に反対するコメントを発表し、さらにLGBTの権利に敵対する団体への寄付が報告されたことから、抗議と不買運動が起こった。この行動に対して賛否両論の有力な政治家たちが発言し、一部のビジネスパートナーは同チェーンとの関係を断ち切った。

ボイコットの目的は、即座に売上にマイナスの影響を与えることだが、企業が心配する必要はないと、IPRアソシエイトで、経営・組織学教授のブレイデン・キングは言う。むしろ、彼は、典型的なボイコットは必ずしも売上高に影響を与えるものではなく、むしろ、企業の評判を脅かし、メディアによるネガティブな報道につながり、長期的には企業やその収益にダメージを与えることになると考えている。

ボイコットに加えて、消費者が破壊行為を通して企業を厳しく非難することがある。例えば、ロシアがウクライナに侵攻した後、ロシア系企業に対する破壊行為はエスカレートし、NBC ニュースによれば、爆弾脅迫を受けた企業もあった。ロシア料理店は、長年米国に住み、ロシアの行動を公然と非難しているロシア系移民のオーナーがいるにもかかわらず、格好の標的となっている。米国中小企業庁によると、1件の破壊行為にかかる費用は平均3,370ドルである。

政治的後遺症

消費者からボイコットされるのは悪い事態であるが、それ以外にも脅威はある。多くの企業は、低廉なリース料や税額控除、その他の特典といった形で、地方自治体や州政府から優遇措置を受けている。大きな反響を呼ぶ問題について発言する企業は、政府関係者と対立する可能性がある。例えば、デルタ航空が有権者IDを義務付ける法律に反対を表明した後、ジョージア州の共和党が支配する下院は、同社に利益をもたらすジェット燃料の販売税免除を廃止することを決議した。

中小企業や非営利団体も、自社の利益を狙った政治的報復を免れることはできない。政治的所属や見解により、契約を拒否されることは、企業にとって珍しいことではない。例えば、ペンシルベニア州ランカスター郡の場合、コミッショナーがYWCAとの契約を解除し、YWCAの投票権に対する姿勢を理由に、裁判に関与した家族を支援する裁判所の指示によるプログラムへの支援を打ち切った。2020年には、カリフォルニア州ロサンゼルスのグレース・コミュニティ・チャーチが、COVID-19の期間中に対面礼拝を行ったことに対する報復であると弁護士が主張し、駐車場の大部分についてリースを終了した。

リスクの緩和方法

報復のリスクを軽減することは、複雑で絶え間なく進化するリスクであるため、困難である。しかし、あなたのビジネスが副次的な影響を受けないようにするための保護を確保することは、まだ可能である。最初のステップは、事業に影響を与える可能性の高いリスクを評価し、保険契約を見直し、適切な保険で軽減・保護できるリスクも含め、十分に対処されていないギャップやリスクが存在する可能性がある場所を特定することである。規制リスク、法的リスク、さらには訴訟に対しても保険をかけることが可能である。しかし、従来の保険契約には限界がある。従来の保険契約には、保険金請求が拒否されるような除外事項がある場合もあり、また、保険金請求にかかる高い費用や調達が困難な場合もよくある。そこでは、キャプティブ保険会社がその隙間を埋め、さらなるメリットを提供することができる。

キャプティブ保険会社とは、保険会社が企業や事業主によって所有されている自己保険の一形態である。保険契約は幅広く、企業のリスクマネジメントニーズに一致するようカスタマイズすることが可能である。支払保険料(保険金を差し引いた額)が利益となるため、事業者が手元資金を蓄えることも可能である。いざという時、収入が途絶えたり、事業が立ち行かなくなったりしても、手元資金があれば事業を存続させることができる。

また、保険に加えて、あなたの会社が報復の被害者となった場合には、信頼できる弁護士を利用できるようにしておくことも重要である。弁護士を雇うことは、撤回要請が必要かどうか、訴訟を起こすかどうかを判断するのに役立つ。

最後に、誤った情報に対抗し、世論を改善し、好意的な感情を高めるために、評判管理会社を雇うことは、あなたのビジネスにとって理にかなっているかもしれない。

米国内の分裂は収まる気配がないので、今すぐ行動を起こし、脅迫戦術、報復、風評被害からビジネスを守ることが重要である。

トピックス
危機管理、保険、政治リスク


注意事項:本翻訳は“Protecting Your Business Against Retaliation ”, Risk Management Site (https://www.rmmagazine.com/articles/article/2023/02/28/protecting-your-business-against-retaliation) February 2023,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
ランディ・サドラーはCICサービス社プリンシパル。事業主、CEO、CFOと直接コンサルティングを行い、キャプティブ保険プログラムの策定にあたっている。