留学プログラムのリスクを管理する(2023年3-4月号)

留学プログラムのリスクを管理する

デニス・マセラ[*]


テレビ会議は、企業や教育機関にとって、確かに使いやすい手段になりつつあるが、やはり、他国文化の中で実際に生活したり、体験したりすることに勝るものはない。近年、留学プログラムへの参加は大幅に減少していたが、ここに来て学生たちは再び本格的な留学経験を模索し始めている。

そのため、教育機関は留学先のビザ要件を満たしつつ教育旅行に関連するリスクを管理するために、保険の補償範囲を評価することが肝要である。おそらく、もっとも重要なことは、留学プログラムを検討している学生の不安を和らげ、そして教職員の懸念に対処するための措置を講じることである。

教育旅行の状況

ワクチン接種率の上昇、海外渡航ガイドラインの緩和、旅行者の自信の高まりなど、留学をめぐる状況に劇的な変化が起きている。国際教育研究所(IIE)が550以上の教育機関を対象に行った調査によると、留学の申請が増加したと報告している教育機関が2020-21年度(1%)や昨年(35%)と比較しても大幅に増えている(85%)。

COVID-19の影響は、パンデミックが進展してもなお感じられているのは当然のことである。旅行全般、特に海外旅行に関連する潜在的な健康リスクは、依然として最前線に残っている。

パンデミック関連の懸念に対処するため、IIE調査の89%の機関が留学生の健康や福祉についてコミュニケーションをとっており、大多数(61%)がメンタルヘルスサポートなどのサービスを提供している。

海外留学での拡大するリスク

高等教育機関への海外渡航では、COVID-19による新たな懸念事項が加わる前から、常に独自のリスクを伴ってきた。学生、教員、その他の職員が海外に渡航する場合、急な病気や事故による怪我など、すぐに治療を受けなければ生命を脅かしたり、深刻な被害をもたらす可能性のある医療上の緊急事態に直面することがある。転倒や転落で骨折することは非常によくある。さらに、自動車事故による死亡は、海外旅行中の米国市民の死因第1位となっている。

疾患の観点から見ると、リスクは突然の心血管疾患や心臓発作、脳卒中、風土病、あるいは重度のインフルエンザまで多岐にわたり、そのすべてが旅行者の健康と安全を確保するために、直ちに治療を必要とする場合が多い。

精神疾患の管理は、高等教育界にとっても非常に重要である。なぜなら、自国の快適な環境を離れて旅行する学生は、身体的・精神的健康上の問題が生じる可能性のある、馴染みのない新しい環境にさらされる。そのため、スポンサーとなる教育機関には大きな責任がかかる可能性がある。法律、規制、言語、食生活、文化的規範、期待値との差など、その国特有の状況や社会的圧力に適応することは、ストレスや不安を生み、健康上の問題を引き起こす可能性がある。そのため、精神疾患も他の病気と同様に扱う適切な保険を用意することが重要である。

そして、医療以外の緊急事態も同じように広く存在する。政情不安、内乱、自然災害、悪天候など、慣れない土地にいる旅行者に大混乱をもたらす可能性である。

上記のような要因(世界各地での旅行、セキュリティ、健康に対する要求の高まり、さらに病気になるリスクの高まり)は、各機関が海外旅行傷害プログラムを見直すきっかけとなっている。

学業旅行保険の補償範囲に関する検討事項

学業旅行保険は、スポンサー付きプログラムに参加する学生に対して福利厚生、安全、安心を提供するという学校のコミットメントを示すのに非常に有効である。また、保険で提供される旅行前や旅行中につながる電話やアプリ、ウェブはそれを通じて、学生は安全や医療に関する情報を得ることができる。

保険にはいくつかの基本的な目的がある。ひとつは、特定の国に入国するために必要な受入国ビザの必須条件を満たすのに役立つ、ということである。給付の種類にもよるが、これらの要件を満たすためには、少なくとも10万ドルの医療保障が必要になる場合がある。

さらに、自国の健康保険が海外旅行者に適用されることは通常ないため、医療保障の格差を埋めることにも役に立つかもしれない。また、大学が提供する学生向け健康保険も、海外旅行には制限がある。次に示すように医療費の高騰が続く中、医療費の自己負担額を軽減することは特に重要な課題となっている:

緊急外来受診の平均費用は毎年着実に増加し、2014年から2020 年にかけては3倍になっている。
インフルエンザの請求に関連する平均費用は、2015年から2020年にかけて76%増加している。
精神神経疾患による医療費請求の平均費用は2016年から50%増加し、その原因の第一位は不安神経症である。
学業旅行保険には、通常、移動中給付金も含まれており、最寄りの適切な医療施設への緊急避難、家族が面会するための移動、病状が安定した後の旅行者の母国への移動が可能である。

学業保険は現代の海外渡航者が最も頻繁に直面する問題のため、旅行の中断、キャンセル、遅延、検疫関連費用など、旅行中の不都合をカバーするように設計されている。

旅行支援サービス提供業者の役割

多くの学業旅行プログラムでは、旅行支援サービスが含まれている。これらのサービス提供業者は、旅行前に保険に加入するために必要な各国のビザ要件の案内から、旅行中に医療やセキュリティ上の問題が生じた場合の緊急旅行の手配まで、海外渡航者が直面する困難な状況に対して支援を行う。

旅行支援サービス提供業者は、通常、医師が常駐し、他の何千もの提供業者との関係を含む広範な医療ネットワークにアクセスすることができる。これにより、遠隔医療、医師の紹介、緊急移送などの支援を提供することができる。遠隔医療が加わったことで、学生や教職員は、現在地から医師と相談し、軽度の病気を解決することができるようになり、請求の関する負担が大幅に改善された。また、行動に関する相談も遠隔で行うことができ、海外で勉強している学生のニーズにも適用している。

旅行支援サービス提供業者は、通常、学生旅行者が留学先の治安や健康状態について常に情報を得ることができるようにポータルサイトやアプリを提供しており、潜在的な危険を回避し、必要に応じて安全な場所に移動するための準備ができる。危険な状況になれば、多くの場合、支援パートナーは、民間輸送機やより集中的な避難手段による旅行者の出国を手配できる。また、支援パートナーは、学生を大学の関係者、医師、病院、両親または保護者につなげることで、すべての関係者に情報を提供し続ける措置を講じる。

旅行中のリスクは、予期せぬ形で顕在化する場合が多い。教育機関は、リスクの低減と移転を可能にし、留学中の学生が直面する潜在的困難を観察し、保護するためのリソースを提供してくれるような国際ネットワークへのアクセスを可能にする学業旅行保険を検討することが重要である

トピックス
危機管理、教育、健康・ウェルネス、保険、安全


注意事項:本翻訳は“本翻訳は“Managing Risks of Study Abroad Programs ”,  Risk Management Site(https://www.rmmagazine.com/articles/article/2023/04/19/how-to-measure-risk-capacity-for-strategic-initiatives) April 2023,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

[*] デニス・マセラはチャブ保険の事故・医療専門市場部門担当副社長。