リスク専門家はAI導入での頭痛の種をどのようにして回避しうるか(2022年10月号)

リスク専門家はAI導入での頭痛の種をどのようにして回避しうるか

デイヴィッド・ベニグソン[*]


WEB特別版9月号表紙

リスク業界が10年前とはまったく異なるように見えると言うのは、あまりにも過小評価になるだろう。パンデミック以前から、リスク専門家は世界が相互に結びついたものになるにつれて、急速に進化する優先事項や責任に対処しなければならないことが増え続けていた。さらに、デジタル・トランスフォーメーションへの取り組みやサプライチェーンのボトルネックなど、パンデミック時代に起因する問題の波紋が加わり、すでに混沌としたリスク空間はさらに手に負えなくなってきていた。

リスクマネジメントの領域は複雑であるため、リスク専門家が回避、軽減、先取することはもちろんのこと、差し迫った脅威を検知することは非常に困難になっている。さらに、一部のリスクチームはデータに精通し始めてはいるものの、現在では大量の非構造化データが氾濫しているため、手作業によるデータの分析や処理は現実的ではない。このため、リスク業界関係者では、リスクインテリジェンスと名声管理からくる頭痛の種に対する可能なソリューションの一つとして、人工知能と自動化に注目する人が増えてきている。

以下は、AIの導入を容易にし、すぐに成功に導くために、リスクマネジメントチームが取ることのできる3つの重要なステップである。

1.発想を転換し、明瞭性を優先する

リスクマネジメントは何十年もの間、非常に意図的な方法で運用されてきた。その結果、グローバルビジネスのスピードと拡大に伴い、確立された成功を収めてきたが、リスクマネジメントはこれまで以上に年中無休体制で取り組まなければならなくなった。さらに、データが他の多くのビジネス分野の主流となっていることから、リーダーは組織内のすべての部門において、同じ知的水準、迅速性、そして「科学的」な成果が生み出されることを期待している。このことは、リスク専門家に対してプレッシャーを積み増している。

新しい技術を導入することは「言うは易く、行うは難し」で、特に運用のフレームワークやワークフローが何十年もほとんど変わっていない場合は、なおさらである。新しい技術の導入には成長痛や頭痛が伴うものであるが、デジタル変革、特にAIの導入に取り組む際にチームが直面する最大の障壁は、考え方を変えることである。幸いなことに、これらは克服できるが、それを正しく行うには非常に明確なガイダンス、目標、手順が必要となる。

例えば、人間である専門家にとって、自からの洞察力が技術に取って代わられるように感じるのは自然なことである。しかし、それは単には実現しない。リスクマネジメントを成功させるためには、人間の直感とインプットが意思決定の指針になることが不可欠であるからである。技術は、さらなる可視性と俊敏性を高めるための手段に過ぎない。したがって、この障壁を克服するために、組織はこの事実を明らかにし、新人研修を通じてそれを強化し、従業員全体が皮肉な考え方を克服し、自分の責任を最適に果たせるように推進することが必要となる。

2.透明性と説明可能性を追求する

AI技術を導入する際にチームが抱える最大の課題は、透明性と説明可能性の2つである。AIは非常に迅速に意思決定を行うため、透明性と説明可能性は社内での成功と、規制やコンプライアンスの問題が発生しないようにすることの両方において、不可欠となる。

AIから得られる洞察は、AIが忠実に守ろうとするフレームワークを超えてよいものになることはない。また、企業が自社のテクノロジーが学習し、進化する際に狂いが生じないよう、当初に多大な努力を払ったとしても、意思決定や洞察が歪んでしまう可能性がある。そのため、組織は、ある洞察がどのようにして到達したのかを容易に理解できるような「ガラス箱」を提供できるツールを用意する必要がある。それによって、意思決定プロセスにおいてバイアスが生じた場合には、簡単に微調整ができるツールとなることができる。

この利点は、社内の専門家が意思決定の状況をよりよく把握できるようになること、企業が倫理基準に抵触することを積極的に回避できるようになることの2つである。さらに、AI導入にまつわる信用に関わる時間的な経緯に対して、企業が立ち向かうことができるようになる。

3.実験に対してオープンになる

AI技術から最大限のリターンを得るためには、組織が実験に対してオープンであることが不可欠である。AIは絶えず進化し、変化している。これは、ワークフローの処理方法やAIの使用方法について、一貫した固まった計画を持っていることを好む「伝統主義者」にとっては、不安なことかもしれない。

AIを通じて、企業はこれまでよりもはるかに明確かつ可視的に新興リスクを追跡することができるため、リスクチームはついに「未知の未知」を発見することができる。したがって、リスク専門家は、潜在的な洞察を得るために可能な限り深く掘り下げることを恐れてはならない。AI技術によって、リスク担当者は、これまで有効なアクセスができなかったサプライヤーやその他のリスクソースを調査することができる。

確かに、すべての調査や分析が、最終的に洞察の宝庫につながるわけではない。しかし、この実験によって企業ができることは、推測に頼って何も起こらないことを期待するのではなく、課題が存在しないことを確実に把握することができるようになる。

トピックス
サイバー、新興リスク、リスク評価、リスクマネジメント、技術


注意事項:本翻訳は“Risk Management Site (https://www.rmmagazine.com/articles/article/2022/10/11/how-risk-professionals-can-avoid-ai-adoption-headaches ) October, 2022,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

[*] デイヴィッド・ベニグソンは、シグナル AIのCEO兼創設者。