新カリフォルニア州法、賃金支払いの透明化を命令する(2022年12月号)

新カリフォルニア州法、賃金支払いの透明化を命令する(2022年12月号)

アリシア・ケノン[*]


12月号表紙

2023年1月1日から、世界第5位の経済大国に匹敵するカリフォルニア州は、新たな給与透明化措置を採用する。カリフォルニア州の州法SB1162は、15人以上の従業員を雇用する事業主に対し、すべての求人に給与または時間給の範囲を記載することを義務付ける。

従前、雇用主は求職者による合理的な要請があった場合に限り、賃金の範囲を示すことが義務づけられていた。現在では、給与の幅が過度に広い職務記述書では、もはや十分ではない。その代わりに、雇用主は、求人を出す前に、職務記述書で期待される経験レベルを示し、その根拠を明確にしていることを確認しておく必要がある。

新法では、対象となる雇用主が、現職の従業員の要請に応じて、現在の職位の給与を開示することを義務付けている。このことは、雇用主がその職位の客観的かつ主観的な構成要素が確実に賃金の範囲を正当化するものであるように取り組むことを義務づけている。この件について、適性評価で手を抜くと、同一賃金法上の申し立てにつながるかもしれない。

雇用主は雇用期間中および退職後3年間、従業員毎の職名および報酬記録を保持しなければならず、文書化しておくことが重要となる。また、同法では、第三者が求人広告の掲載、公表、宣伝に使用する場合、報酬の額を開示することを義務付けている。

州法SB 1162によれば、州の労働委員会は、この条項違反を申し立てた告発を調査する権限をもっている。違反を発見した場合、労働委員会は適用対象の雇用主に対し、違反1件につき100ドルから10,000ドルの民事罰金を支払うよう命じることができる。また、同法では、差止めその他の救済を求める個人の私的な訴訟権を規定している。民事制裁金は、コンプライアンスを強制するのに十分な抑止力を持つことになるかもしれないが、本法案は真の食い違いが存在している状況において、より広範な同一賃金法違反の直接的証拠を収集する機会を生み出し、それによって雇用主の潜在的責任をさらに増大させる。

さらに、毎年5月の第2水曜日までに、カリフォルニア州は、従業員数が100人以上の民間雇用主に対して、年次有給データ報告書をカリフォルニア州公民権局に提出することを義務付ける。この報告書は、人種、民族、性別ごとに分類された各職種の時給の中央値と平均値を開示しなければならない。また、人材派遣会社等の仲介業者を通して労働者を100人以上雇用する民間の雇用主は、これらの労働者の別途給与データ報告書を提出しなければならない。必要な報告書を提出しない場合、最初の違反に対しては従業員1人当たり100ドル、その後の違反に対しては従業員1人当たり200ドルの罰金が科される可能性がある。

他の管轄区域における賃金透明化法

カリフォルニア州はもっとも直近で支払いの透明性に関する法律を成立させた州であるが、近年になってこうした開示を義務付ける州や自治体はここでだけではない。ニューヨーク市とコロラド州、ワシントン州はすでに給与範囲の開示を義務づける法律を成立させている。また、ニューヨーク州議会は6月に支払いの透明性に関する法律を可決し、知事の署名を待っているところである。署名すれば、同法は来年には施行されるだろう。コネチカット州、ネバダ州、ロードアイランド州などの他の州では、雇用手続きの際に支払いの透明性を義務付ける法律を採用しており、コネチカット州、ロードアイランド州、メリーランド州では、志願者の要請に応じて開示を義務付けている。

コロラド州はこうした法律を初めて成立させた州であり、男女間の賃金格差の是正を具体的な目標として2021年1月に施行された。この法律は、その目的のための重要な追加措置を求めている。例えば、雇用主は昇進の機会を従業員に通知し、雇用期間中およびその後2年間、すべての従業員の職務記述書および給与履歴を記録しなければならないことになっている。また、雇用主が求職者の給与の履歴を尋ねることも禁じられている。というのも、これは給与格差を助長させるものと見なされるからである。

新型コロナパンデミック前後には、在宅勤務の形態が大きく変化したこともあって、この新法を制定したコロラド州では、一部の企業がコロラド州からリモートの求職者を不当に排除して開示を回避しようした。

コロラド州労働雇用省が発表した統計によると、地元企業の3社は2021年に給与透明化法違反で罰金を科せられた。罰金は6,500ドルから34,000ドルの範囲で、違反1件当たり平均500ドルから1,000ドルであった。これらの違反のいずれかがその後の訴訟につながった場合、支払履歴データの保持を怠ったことの結果の一つは、陪審員が「記録しなかったことは、違反が悪意をもって行われたことを示す証拠とみなすことができる」との推論を認めてしまうことに留意することが重要である。

連邦法は給与の透明性に関する訴訟に従うか

ある時期に、連邦法もこの問題に関して各州を追随することになるだろう。給与の透明性は、米国における職場の平等をめぐる多くの議論の最前線にあり、政府の最高レベルでもしっかり注目されている。実際、バイデン大統領は2021年にホワイトハウス・ジェンダー政策評議会を設置する大統領令を発出した。この命令に明記されている目標と戦略は、部分的には以下の通りである。

  • 労働力におけるジェンダー格差の是正と女性の労働参加を強化する。
  • 性別、人種その他の特性に基づく賃金差別を禁止する法律を強化し、執行のための資源を増やす。
  • 性別、人種等を踏まえた賃金格差の分析を促進することにより、給与の透明性を促進する。
  • 報酬決定における過去の給与履歴への依存を排除する方針を追求する。

2022年3月、連邦政府内部の労働力および連邦政府の請負業者の間で、給与の公平性と透明性を促進するため付随命令が出された。要するに、これは、民間企業が政府の仕事を遂行する資格を得るために、従業員の報酬について透明化を求めるものである。

透明性を求める管轄区域におけるリスク軽減

雇用主は、採用する場所で報酬の範囲に合致する明確な職務記述書を確保するために措置を講じる必要がある。また、現在の従業員からの同一賃金法の訴訟リスクを排除するために、内部および外部の給与データも監査すべきである。また、同様に、経営陣と人事担当者のためのコンプライアンス研修を追加することが必要である。

結果として生じるリスクを管理することは、組織にとどまるものではない。保険会社は引受決定を下す際に、雇用主がこれらの問題を認識していないあるいは積極的に対処していない場合には、負債リスクを判断し、企業の慣行について質問するはずである。企業の法務担当者はこれらの違反の予期しない結果や、結果として生じる可能性のある訴訟の影響に備える必要がある。

州議会や連邦議会が明らかにし始めているように、透明性は単なる「流行」ではない。雇用主、従業員、求職者、保険会社、およびそれぞれの法律顧問は、給与の開示およびその他の措置が実施されるにつれて、多くのことを考慮しなければならなくなっている。

トピックス
人的資本、法務、新興リスク、規制、従業員管理


注意事項:本翻訳は“New California Law Mandates Pay Transparency”, Risk Management, , November-December, pp.4-6,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

[*]アリシア・ケノンはカリフォルニア州北部にあるウッド・スミス・ヘニング・バーマン法律事務所のパートナー、雇用慣行、職業責任、証券、金融機関、建設に関する訴訟請求の専門家。