【Web特別版】気候変動が洪水リスクマネジメントに与える影響(2024年1-2月号)

【Web特別版】気候変動が洪水リスクマネジメントに与える影響(2024年1-2月号)

ラス・バナム[*]


RISK MANAGEMENT2024Web版 表紙1-2月号

米国では、2023年に洪水が広範にわたる破壊を引き起こした。NOAAの国立環境情報センターによれば、カリフォルニア州、フロリダ州、バーモント州および東海岸沿いで発生した、4 回のそれぞれが十億ドル規模の洪水災害により、住宅、企業、インフラに100億ドル近い損害を与えた。実際、米国では2000年以降、洪水による被害額は8500億ドルを超え、自然災害全体の3分の2を占めている。気候変動により、洪水がどこで発生し、どの程度の被害が予想されるかを正確に予測することが難しくなっているため、リスクの専門家は、組織を確実に守るための対策を講じる必要がある。

洪水リスクを過小評価する

洪水リスクを管理するために、組織は通常、まず保険市場に目を向ける。営利損害保険や企業所有者保険では、洪水によって引き起こされる建物や家財への損害は除外されることが多い。連邦政府の国家洪水保険プログラム(NFIP)は、損害を吸収するための保険を提供し、商業用建物に最高50万ドル、建物の家財に最高50万ドルの洪水保険を提供する。これらの限度額を超えるリスク遭遇可能性については、リスクマネージャーは商業保険会社から超過洪水保険を購入することができる。

国家洪水保険プログラムは、事業中断による事業用車両の損害や洪水に関連した財務上の損失を補償しないが、これらの損失に対する補償は保険市場でも利用可能である。問題なのは、多くの企業が洪水によって事業が直面するリスクに気づかず、備えもしていないということである。チャブ社(世界最大級の損害保険会社)の調査によると、85%の企業が、自社の損害保険が洪水の一部、全部、または大部分をカバーしていると誤って信じている。この調査では、商業洪水リスクの重大さが過小評価されていることが明らかになった。これは「極端な気象現象の頻度と深刻さが増すにつれて、はるかに広がっている」と、チャブ社北米洪水保険担当副社長、ルイス・ホブソンは指摘する。

NFIPの各種保険契約および補償の引き受けは、大部分が米連邦緊急事態管理局(FEMA)の100年氾濫原地図に基づいている。これらの地図は、洪水が特定の地域の商業用建物や住宅に損害を与える可能性を推定する。30年間に4分の1の確率で洪水が発生する地理的地域は、特別洪水危険区域と定義され、最も危険度が高い。

残念ながら、気候変動によってこれらの地図の多くはますます不正確になっており、その結果、洪水リスクの死角が大きくなっている。「FEMAの地図は過去の出来事を反映しているだけで、将来の潜在的な被害を予測するには不十分である」とギャラガー社(世界有数の保険仲介、リスクマネジメント会社)の資産実務リーダー、マーサ・ベインは述べた。

気候変動リスク・定量化に関する研究グループ、ファースト・ストリート財団によると、この地図は、48州全域で洪水の危険にさらされている住宅や企業の数を67%過小評価している。1994年に制定された国家洪水保険改革法により、FEMAは5年ごとに洪水マップを改訂・更新することが義務付けられているが、ファースト・ストリート財団によると、地図の4分の3は5年以上前のもので、11%は、遥か1970年代や1980年代まで遡るものである。「この国には、地図に記載されていない場所が大量に存在する」「FEMAが評価する22,000の郡のうち、6,500のコミュニティが地図化されていない。全長350万マイルの河川網のうち、およそ230万マイルが地図化されておらず、全長95,000マイルに及ぶ海岸線のうち55,000マイルが地図化されていない」と、述べた。

昨年、FEMA は、50 年前の測定システムを更新し、リスク評価 2.0 と呼ばれる新しい価格設定方法を導入した。この方法では、高潮、津波、海岸浸食のほか、いわゆる「多雨リスク」(都市やその他の都市環境における洪水の主な原因である集中豪雨)を含む、より広範な洪水頻度データをリスクの引き受けに際して考慮する。また、この新しい方法は、洪水保険申請書に記載された情報を用いて決定された建物の再調達価格も考慮している。

こうした新たな考慮は一歩前進かもしれないが、NFIPを通じて超過洪水保険を提供する保険代理店エーオンの傘下であるエーオン・エッジ社社長、ジョン・ディックソンは、予期せぬ激しい降雨パターンの予測に部分的に基づいたモデルには本質的な限界があると指摘した。たとえば昨年は、「大気河川」(熱帯から高緯度へ湿った空気を運ぶ大気中の長く集中した領域)によって引き起こされた洪水が、南カリフォルニア、カリフォルニア中部海岸、北カリフォルニア、ネバダを襲い、46億ドル以上の物的損害をもたらした。今月初め、大気河川が再びカリフォルニアを襲い、3日間でロサンゼルスに8インチ(約20cm)以上の雨を降らせ、州全体で9人の死者と数億ドルの損害をもたらした。「信じられないような降雨によって引き起こされるこのような大規模な洪水は、ますます多くなっている」「FEMAは洪水地図を維持する責任があるが、水は架空の(地理的な)線のところで止まるわけではない」と、ディックソンは述べた。

事前準備的な洪水リスクマネジメント

FEMAの洪水地図の正確性にかかわらず、組織は、商業用不動産を洪水被害から守り、洪水保険料が実際のリスク遭遇可能性を反映するようにするための措置を講じる必要がある。例えば、ある物件がFEMA指定の洪水区域にあるからといって、自動的に洪水被害のリスクが高くなるわけではない。エバーソース・エナジー社全社的リスクマネジメント責任者デニス・コセンティーノは、2017年にエバーソース・エナジーがサウスボストンの港湾地区に建設した変電所を引き合いに出しながら、「新しいインフラに高さを加えるということで、地図が示す以上のことを行ってきた」と述べた。「私たちは、変電所を地上15フィートの高さに保つために、既存の岩盤を80フィート掘削した。これにより、激しい嵐や高潮にも耐えられるようになった。ほとんどの保険契約では、危険度の高い洪水地帯にある物件には保険金が支払われることはない。私たちは、不動産保険会社の損失管理担当者に、これらの施設に訪れて、完全な洪水対策を講じるために私たちが何をしたかを確認するよう依頼したが、彼らは快く応じてくれた」。

また、リスク専門家は、損害保険の申請書において、特定の洪水リスク遭遇可能性条件や緩和策を強調することで、より良い料率や補償を確保することができる。例えば、良好な地形や標高を詳細に説明したり、企業が強固で定期的に点検する事業継続計画を有していることを強調したりすることができる。「リスクマネージャーが、1階の高さ、潜在的な損失を軽減するための洪水対策投資、計画された事故対応や災害復旧措置についてより具体的に説明できればできるほど、保険会社は引受決定を行う際の不確実性を減らすことができる」と、ベインは述べた。

QBE(オーストラリア最大の保険会社)北米社の主任リスクマネジメント・コンサルタント、テッド・カバニスによると、リスク専門家は保険申請を締結する際に、以下の質問を検討するべきであるという。「洪水地帯として知られている場所にいるか、またはその近くにいるか。建物に水が浸入する可能性のある出荷・入荷ドックのような低地にある建物なのか。排水溝が詰まっていないか定期的に点検しているか。洪水ゲートを設置し、その場所を把握しているか。年に一度、排水管を整備することを実践しているか。また、洪水災害・事業継続計画を文書化し、全員の責任を明確にしているか」。

当たり前のことのように思われるかもしれないが、リスク専門家は、建物の正確な位置情報を提供することにも細心の注意を払うべきである。「数百棟の建物を所有する大口顧客が、自らが所有する建物の再調達原価を送付したところ、その建物の多くがリストに記載された所在地の近くにはなかったという状況を見てきた」と、リスク・エンジニアリング・コンサルティングのスナップリスク社創設者兼CEOクリスティン・キャリントンは述べた。「1万の所在地を持つある顧客は、12棟の建物が物理的に大西洋にあることを示す所在地を提供した。何年も前に売却された建物をいまだに(保険申請書に)記載している顧客もいた。影響を受ける建物がないのに、なぜNFIPの最高料金を支払うのだろうか」。

モンテカルロ法や壊滅的な洪水モデリングも大きな影響を受ける。「このモデルは、建物の位置、レンガ造りか木造か、いつ建てられたか、といった事業顧客データを取り込み、何千ものシミュレーションを実行して、現実的なあらゆるタイプの洪水災害を損害推定値に反映させる」と、ベインは述べた。「Catモデルはゲームチェンジャーであった。私たちは、その限界を承知した上で、FEMA 地図に加えてそれらを使用している。 洪水地帯にあるということだけが、建物が洪水被害を受けるときの必要条件ではない」。

また、より正確なデータを提供するために、多くの企業が技術に注目している。例えば、LIDAR(ライダー)のようなレーザースキャンツールを使って、洪水に対して弱い所有地の中の場所を特定している企業もある。「顧客によっては、より正確なデータを提供するために、技術担当者がLIDARを搭載したドローンを飛ばして施設周辺をスキャンする」と、彼女は述べた。

エバーソース・エナジー社の水保険申請書を作成するにあたり、コステンティーノ社は上記のことをはじめとする多くのことを行っていると報告した。「2022年、われわれのエンジニアリング部門は、気候変動の影響を予測する、気候変動に関する政府間委員会の報告書を、今後50年間にわたり、われわれがサービスを提供する地域のインフラ施設に重ね合わせるために、コンサルタントを雇用した」と、彼女は述べた。「それ以来、私は洪水保険を提供する会社に対するプレゼンテーションで、この報告書を取り入れている」。

トピックス
気候変動、災害対策、環境リスク、保険、自然災害、リスクマネジメント


注意事項:本翻訳は“The Impact of Climate Change on Flood Risk Management ”, Risk Management Site (https://www.rmmagazine.com/articles/article/2024/02/13/the-impact-of-climate-change-on-flood-risk-management ) February 2024,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

[*]ラス・バナムはロサンゼルスを本拠とするベテランのビジネスジャーナリスト。