米国外を原産地とする製品に対する責任を検討する(2024年7-8月号)

米国外を原産地とする製品に対する責任を検討する(2024年7-8月号)

ダニエル・トラネン、キャサリーン・ワリン[*]


2024年7月-8月web特別版

 米国外で製造された製品の製造物責任とリスクの評価は複雑で微妙なものである。必要となる最初の検討事項は、米国以外の製造業者とその米国の販売代理店との間の関係である。この関係は、両当事者の裁判管轄、防御および補償義務の範囲、証拠開示手続き、判決の収集を含む、多くの訴訟関連の問題に影響を及ぼす。

 米国外で製造された製品が米国内の誰かに怪我をさせたとされ、その人が訴訟を起こすというシナリオを想像してみてみよう。ところが、その製品が米国に到着する前に、外国の製造業者が米国以外の別の企業に製品を販売することに同意し、その後、この米国以外の2番目の企業は、別の米国企業と、この製品を米国で販売することで合意に達している。どの裁判所が管轄権を有しているか、誰が訴訟を防御しなければならないか、どの保険が適用されるか、関連する証拠が各会社から入手できるか、そして最終的に和解または判決に対して支払う者が誰なのか、これらの契約上での条件が、訴訟の将来を決定することになる。両社の契約条件によって、外国の製造業者から米国の販売代理店の訴訟リスクに至るまで、流通チェーンにおける各社の立場が決まることになる。

 組織は、外国の製造業者と米国の販売代理店との間の役割と関係、米国の製造物責任訴訟への潜在的な影響、および米国訴訟の最も時間と費用のかかる要素である証拠開示手続き、そして2つの企業間の関係がどのように影響を及ぼすのかを明確に理解する必要がある。

関係の範囲

 販売代理店と外国の製造業者にとって最も重大な責任要因は、おそらく両者の法的関係であり、製造業者と販売代理店が同じ企業ファミリーに属しているか否かによって大きく異なる場合が多い。そうでない場合には、両社の契約関係は構造化されておらず、米国での訴訟リスクが増大する可能性がある。

 例えば、米国において外国製造業者に責任を負わせようとする原告は、しばしば、対人管轄権の擁護に基づいて、外国製造業者による深刻な管轄権上の課題に直面する。一般的に、対人管轄権に関する規則は、被告が、被告をその場所で「裁判所にとどめておく」ようにさせる何らかの事柄を、管轄区域内で行ったことを要求している。外国製造業者の米国への唯一の接続が製品を入国港に送ることであれば、その入国港が外国製造業者を訴えられる唯一の場所であるかもしれない。

 一方、当該外国製造製品の販売代理店は、通常、原告が訴訟を提起した管轄権を含め、製品を販売するいかなる場所においても裁判所の管轄権に服する。重要なのは、米国の販売代理店と外国の製造業者の間での企業の区別が十分に定義されていないことがあることである。この場合、裁判所は、販売代理店が事実上外国製造業者の代理人であると認定し、当該代理人がそうでなければその代理人を選任することができない場合に、当該代理人の判断に基づいて当該外国製造業者を管轄することを許可している。

 製造物責任が製品の設計、製造または警告の欠陥に起因する典型的な製造物責任状況において、製造業者は通常、対象被告である。そのような場合、販売代理店は、通常、販売契約における賠償と「免責」の文言に基づいて、その防御および補償を製造業者に差し戻す。この戦略は理にかなっている。なぜなら、製品の設計、製造、表示は通常、製造者の責任だからである。

 外国の製造業者と米国の販売代理店との契約は独特なものである。外国の製造業者は、米国の訴訟との取引を避けたい場合が多い。つまり、契約は、米国の販売代理店が、米国の訴訟から外国製造業者を補償し、損害を与えないようにすることを要求している。しかし、その訴訟を弁護する時になると、米国の販売代理店は通常、製品の弁護において一般的に不可欠となる設計記録、製造記録、製品テスト情報、その他の文書を欠いているため、非常に不利な立場に置かれる。

 また、米国販売代理店の担当者が製品について証言する場合、重要な技術知識が不足していることが多く、これもまた販売代理店にとっては不利である。国外への情報公開に関する外国の規則は、外国の製造業者がその情報を米国の販売代理店と共有する能力を損なわせる可能性があり、外国の法的制約がなくてもそれを拒否する可能性がある。

 米国の販売代理店は、通常、米国で販売される製品の米国規制当局の承認を得る際にも重要な役割を担う。したがって、販売代理店は、製品に関する顧客への警告の提供を含め、ラベルを付けることに責任を負う可能性がある。これは、警告の不足に焦点をあてた製造物責任に関する訴訟について、海外の製造業者と米国の販売代理店がリスクを共有することを意味し、そのような領域での訴訟が増えている。販売契約における規制当局の承認の役割を明確に定義することは、弁護側が責任当事者に対して、訴訟に集中させるのに役立つ。

関係性が証拠開示手続きの範囲に与える影響

 証拠開示手続きでは、訴訟場所の法律や外国企業の所在地の法律に基づいて、さらに複雑な問題が発生する。これらの問題の評価には、訴訟場所の法律の分析が含まれ、外国事業体の所在地の法律は、証拠開示手続きを受け入れて、対応するための事業体の責任を決定する。外国製造業者が当該訴訟の当事者でない場合、当該当事者から直接証拠を入手することは、対人管轄権の詳細な分析、サービスに関する国際条約の検討、ハーグ条約または適用される民事訴訟規則を通じた国際礼譲の検討を必要とする。このような分析では、データプライバシーやデータ転送に関する規制、証拠の保存要件、自国での規制遵守など、米国と外国の法律の相違も考慮する。しかし、訴訟当事者はしばしば、米国外で保管されている証拠の発見を単純化しようと試み、典型的な発見方法を使って米国の販売代理店から直接証拠を探そうとする。

 企業間の関係を明確に定義することは、米国の訴訟における潜在的な証拠開示手続きの範囲に関して、実務上の重要性を持つ。連邦民事訴訟規則、および一般に州民事訴訟規則の下では、当事者は、「その所有、保管または支配」の範囲内で書類を提出しなければならない。裁判所は、この文脈における「支配」の意味に関する事実に特化した調査を受け入れている。これには、当事者が要求に応じて書類を入手する法的権利または実務的能力を有するか否かを決定するための証拠手引きの分析も含まれる。

 ある外国の親会社が、米国の代理店が米国で販売する医療機器を製造している状況を考えてみよう。大規模な不法行為は、傷害を引き起こす装置が欠陥のある設計であり、ラベルが貼られていると主張する多くの事件で始まる。米国の代理店のみが訴えられるが、証拠開示手続きには親会社が保持する情報と文書を要求することが含まれる。原告側の弁護人は、ハーグ証拠条約を通じて親会社に直接書類を求めるのではなく、米国の子会社である販売会社に書類を求める。販売代理店は、これらの資料に対する「支配」を否定するが、原告は、当該資料が販売代理店の所有物でない場合であっても、外国製造業者との通常の取引過程において、それらの資料にアクセスすることができると主張して、販売代理店からの対応を強制することにする。友好的でない裁判所は、販売代理店に対応を命じることができる。その場合、販売代理店は、自分たちが支配権を欠いているという主張を展開することができる。そうすると、販売代理店は、親会社から書類を受け取らなければ、不履行判決の可能性も含め、裁判所から制裁を受ける可能性がある。このような状況はよくあることで、米国の代理店と外国の親会社は、次に何をすべきか、すなわち原則を守り、裁判所の処罰を受けるか、それとも屈服してより良い戦いを選ぶか、という決意が試されることになる。

 ほとんどの裁判所は、米国子会社が外国の親製造業者から理論上入手できる書類の提出を命じられるべきかどうかを判断するために、他の要因を検討することになる。その他の要因としては、所有権の共通性、取締役や役員の重複、通常の事業過程における文書の交換、マーケティング、サービス、財務関係における両社の役割などがある。裁判所は、また、製造、マーケティング、規制遵守および研究開発といった事業に関連する部署を含め、コンピュータ・ネットワークを通じた当該企業間のデータ共有およびデータへのアクセスを検討する。さらに、裁判所は、外国の親会社が保有する販売代理店からの書類その他の資料の提出を命じることができるか否かを決定するために、事業体間の関係を決定する際に、当該訴訟と非当事者との関係を精査する。

 このように、裁判所は、米国で販売される製品を製造する外国企業が、その製品が米国の製造物責任訴訟の対象である場合には、証拠となる可能性のある証拠関連書類に関する義務を負っていることを確認することができるかもしれない。しかし、これらの義務は、外国の製造業者とその米国の販売代理店との間の明確な契約文言によって回避することができる。とはいえ、情報が要求に応じて、かつ、外国企業の同意がある場合にのみ共有されることを規定する契約があっても、米国の販売代理店がそのような情報の提出を強制される結果となる可能性があり、販売代理店の防御に役立つという保証はない。

 情報や文書を共有する義務がない場合、訴訟中の資料の作成を回避するために戦う米国の販売代理店は、外国企業との契約にある条件に依存することができ、原告に対して外国製造業者から直接文書を入手させるようにすることができる。このことは、米国の条約を通じた情報の確保という高いハードルを含んでいる場合には、原告とその弁護士の負担を著しく増大させ、外国裁判所の証拠開示手続き規則の遵守を必要とさせるかもしれない。

実務上の検討事項

 外国の製造業者に対する管轄権と証拠開示手続きの確保が難しいため、米国の原告は、米国の販売代理店を追及することで訴訟を開始したり、終了したりする傾向がある。米国の販売代理店と外国の製造業者は、関係を構築する際に、そのダイナミクスを検討すべきである。販売代理店と製造業者が同じ企業ファミリー内の関連会社であるかどうかにかかわらず、両者の間の関係は明確に定義されていて、以下の問題に対処しなければならない:

  • 代理関係(あるいは代理関係の欠如)についての議論
  • 製品の設計、製造、規制、遵守および表示に関わる責任に関する明確に定義された役割
  • 従業員、役員、役員の情報共有に関する明確な境界
  • 賠償責任の限界、防御および補償(保険適用を含む)などのリスク移転に関する検討事項

 さらに、特に同じ企業ファミリーに属する関連会社の場合、外国の製造業者が米国の関連販売代理店に対する裁判所の管轄権に基づいて裁判所に引き出されることを防ぐために、企業として明確に異なる存在であることが不可欠となる。

トピックス
法務リスク、リスクマネジメント、サプライチェーン


注意事項:本翻訳は“ Liability Considerations for Products Originating Outside the United States”, Risk Management Site (https://www.rmmagazine.com/articles/article/2024/07/30/liability-considerations-for-products-originating-outside-the-united-states ) July 2024,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
ダニエル・トラネンはウィルソン・エルサーの地域業務執行役員、同社ライフサイエンス業務および製造物責任・予防・政府コンプライアンス業務の共同議長。
キャサリーン・ワリンはウィルソン・エルサー地域業務執行役員、同社のライフサイエンス業務および製造物責任・予防・政府コンプライアンス業務の共同議長。