建築、エンジニアリング、建設における10のリスクマネジメント・ベストプラクティス(2024年11-12月号)
アンナ・リザ・モンテネグロ[*]
規模や範囲に関係なく、すべての建築、エンジニアリング、建設 (AEC) プロジェクトには、ある程度のリスクが伴う。近年、経済的な要因により、AEC 企業は予算を引き締め、プロジェクトの進行を遅らせる可能性のある問題にさらに注意を払う必要に迫られている。
AEC 企業は、適切な戦略によって業界固有のリスクを軽減できる。AEC 組織は、リスクマネジメント戦略において、次の主要なリスク要因に対処する必要がある。
コンプライアンス: 国、州、地方自治体にはそれぞれ独自の規制およびコンプライアンス要件がある。これに従わないと、コンプライアンス違反に対する高額な罰金が科せられ、建物への入居が遅れる可能性がある。AEC 部門は特に ESG 基準を満たすよう圧力が高まっており、コンプライアンスは持続可能性の問題となっている。
財務: 建設プロジェクトでよくある不満は、予想よりも早く資金がなくなることである。AEC プロジェクトでは多額の資金投資が必要になることが多く、高い収益を求めるプレッシャーが高まる。
環境と天候: 季節的な問題、自然災害、そして単なる不運はすべて、建築プロジェクトの進行を遅らせる要因となり得る。例えば、塗装や屋根葺きなどの作業は、豪雨の中では行えない。また、敷地の形状や傾斜、作業員が基礎工事のために土を掘り起こす容易さなど、検討すべき環境リスクもある。
サプライチェーンの遅延: 建築・建設業界はパンデミック中に大きな打撃を受け、国際的なサプライチェーンの問題により、引き続き作業が遅れている。輸送ルートが崩壊すると、重要な資材が必要な場所から何マイルも離れた場所で滞留してしまう可能性がある。
利害関係者の意見の不一致: 建築プロジェクトには、建築家、インテリアデザイナー、エンジニア、建設業者、投資家、顧客など、複数の利害関係者が関与することがよくある。意見の不一致が 1 つでもあれば、プロジェクトは急停止に追い込まれる可能性がある。
リスクマネジメントのベストプラクティス
上記のリスク要因を念頭に置き、AEC 業界でリスクを管理するためのベストプラクティスを、以下に示す。
- 明確なコミュニケーションを確立する: AEC リスクマネジメントの多くは、関係者全員の間でオープンなコミュニケーションを必要とする。効果的な建設コミュニケーション戦略を実装することで、企業はプロジェクトプロセスの早い段階でこれらのコミュニケーション・ラインを確立することで、誰もが問題を報告し、重要な更新情報を共有する方法について自信を持っていられるようになる。
- 開始時にリスク評価を実行する: AECプロジェクトでは、開始前に綿密な計画が必要となる。計画レビューのあらゆる時点で、何らかのリスク評価を行う必要がある。企業が軽減する必要がある現場の問題はあるのか。民間開発で対処する必要のある珍しい規制上のハードルはあるのか。企業は、プロジェクトが開始されるかなり前に、考えられるすべての障害を検討する必要がある。
- テクノロジーを使用する: テクノロジー・ツールは、AEC企業がリスクをより効率的に管理するのに役立つ。人工知能と仮想現実は、リスク要因を分析し、建設作業員の安全訓練を改善することに役立つ。ビルディング・インフォメーション・モデリング・ソフトウェアによって、現場での重機の相互作用を特定したり、プロジェクト・マネージャーが落下防止戦略を改善するための方法を提供したりするなど、さまざまな方法で建設の安全性を高めることができる。
- 全員を関与させる: クライアントから請負業者まで、全員がリスクの軽減に協力する必要がある。情報と専門知識を集積することは、発生する可能性のある問題を回避するために不可欠である。
- 危険に注意を払う: 潜在的なプロジェクトリスクを特定することは、最初のステップにすぎない。プロジェクトに悪影響を与える可能性のあるすべてのものを絞り込んだら、その可能性と影響に基づいて、それらの悪影響に対処するための優先順位を付ける。この時点ではリスク・マトリックスが不可欠である。プロジェクトに影響を与える可能性のあるさまざまな要因を視覚的に表すことで、関係者の意思決定をサポートできるからである。日常的な業務に影響を与える可能性のある重要なプロセスと機能に焦点を当てる。
- 訓練に投資する: 建設現場での落下、不適切な資材の管理、その他の安全上の危険は、頻繁で徹底した訓練によって回避できる。訓練と能力開発に投資することで、チームに力を与え、説明責任を促すために必要なスキルをチームに提供する。
- バックアップ・プランを用意する: リスクマネジメントの最善のアプローチは、何かがうまくいかないと想定することである。これにより、代替的なソリューションを開発し、問題が発生した場合に備えてバックアップを用意しておくことができ、さらなる遅延や問題の発生を抑えることができる。
- 発言を促す: AECプロジェクトには多数の人が関わっていることから、リスクを特定するには有利となる。現場にさまざまな目と耳があることで、警備員やカメラ映像では見逃してしまうようなことを発見できる。気づいた安全上の問題や潜在的なリスクについて発言するよう促すことで、忙しいプロジェクト中に見落としがないようにすることができる。
- 定期的なレビューをスケジュール化する: 現場と計画策定への訪問はほとんどの AEC プロジェクトに組み込まれているが、発生する可能性のある問題に対処するために、リスクレビューを同じように優先事項にする必要がある。
- リスク軽減策の成功を評価する: 履歴データはすぐに予測分析に役立つ。各プロジェクトの最後に、使用したリスク軽減戦略をレビューし、今後の取り組みがさらに効果的になるように改善点を書き留める。
優れた戦略を策定しても、AEC プロジェクトで問題が発生する可能性を完全に排除することはできないが、危機になる前にリスクを把握しやすくなり、プロジェクト・マネージャーがより迅速に対応できるようになる。
トピックス
健康とウェルネス、プロジェクトマネジメント、リスク評価、リスクマネジメント、安全
注意事項:本翻訳は“10 Risk Management Best Practices for Architecture, Engineering and Construction”, Risk Management Site (https://www.rmmagazine.com/articles/article/2024/11/13/managing-organizational-risk-during-layoffs ) November 2024,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
アンナ・リザ・モンテネグロは、マイクロソル・リソーシズ社熟練建築家兼マーケティング担当取締役。