どうしたら取締役会が地政学的リスクを乗り切れるか?(2025年9-10月号)

どうしたら取締役会が地政学的リスクを乗り切れるか?(2025年9-10月号)

ロビン・ビュー(訳:鈴木英夫)[*]


2025年9月-10月web特別版

 多くの最高経営責任者(CEO)や取締役は、比較的オープンな貿易・人材・情報の流れと、概ね安定したグローバルな同盟関係を特徴とするビジネス環境で、キャリアの大半を過ごしてきた。しかし、過去5年間で国際秩序は劇的な変化を遂げ、その変化は循環的なものではなく、構造的なものへと傾斜しつつある。リスク環境はかつてないほどグローバル化し、相互に関連し、急速に変化している。そのため、こうしたリスクを管理・軽減し、競争優位性を確保するための機会を早く見つけ出すことが重要になっている。

 EYボード・マターズ・センターは、EYパルテノン・ジオストラテジック・ビジネス・グループと共同で、「より複雑で断片化が進み、不確実性が高まる国際的なビジネス環境において、取締役会がどのように監督活動を調整しているか」を調査した。取締役会が地政学的リスクと機会に対処する方法は、ここ数年で劇的に変化した。例えば、EYパルテノンの「地政学的戦略の実践」調査によると、2025年には84%の組織が、「取締役会は政治リスクが企業の既存戦略に与える影響を評価している」と回答したが、2021年にはその割合は40%に過ぎなかった。

調査結果は、取締役が検討すべき3つの点を浮き彫りにしている。

1.取締役会は、世界的なマクロ経済・貿易・規制・政策課題への対応を支援するために十分な情報を入手しているか?

 2021年から2024年にかけての最大の変化は、「取締役会が外部の専門家から政治リスクに関するブリーフィングを定期的に受けている」と回答した割合が、2021年のわずか16%から2025年には82%に急増したことである。また、経営陣からこれらのトピックに関するブリーフィングを定期的に受けている取締役会の割合も大幅に増加している。

 しかし、取締役は、受け取る地政学情報の量や頻度だけでなく、その質にも注意を払うべきだ。優れた取締役会は、取締役会議事の形式と内容が取締役会における建設的な対話を促進することに向けられている必要がある。そしてその報告書は、焦点を絞った将来を見据えた内容であるべきであり、同時に、傾向・パターン・意味合い・ビジネスへの影響に関する分析を盛り込み、要約・吹き出し・グラフ・音声・動画といった分かりやすい形式を用いるべきである。

 取締役会メンバーが情報をどのように活用するかも重要だ。取締役は、取締役会の質を向上させるための最優先事項は、「経営陣のプレゼンテーションを聞く時間を減らし、オープンな議論に多くの時間を費やすことだ」と繰り返し述べている。取締役会メンバーが戦略や長期的な価値創造への影響について議論する機会がなければ、優れた洞察や分析も役に立たない。

2.今の取引・提携計画は、新たな地政学的現実を反映しているか?

 ジョイントベンチャー、パートナーシップ、スピンオフ、そして買収は、イノベーション、成長、そして競争優位性の促進に役立つ。EY-パルテノンの調査によると、取締役会が「M&Aや市場参入といった分野において政治リスクへの考慮を定期的に取り入れている」と回答した割合が、4年前の25%から2025年には77%へと劇的に増加した。これは、戦略的ポートフォリオの見直し、取引の前提に対する建設的な反論、そして取引後の統合と変革管理の綿密なモニタリングを通じて実現されていく。取締役会のメンバーは、以下の点について検討する必要がある。

  • 税制・貿易・関税・移民政策・消費者嗜好といった国際情勢は、ポートフォリオ戦略や資本配分の決定にどのような影響を与えているか?
  • 取締役会の機能は、新たなトレンドを踏まえ、企業の競争環境が長期的にどのように変化するかを、また、どのように未来視点で捉えているか?さらに、これらの議論が、企業の取引戦略にどのように反映されているか?
  • 取引を成功させるためには、どのような中核的な前提が満たされていなければならないか?また、現状が変化した場合の経営陣の計画はどうなるのか?
  • 取締役会と経営陣は、過去の取引の成功と失敗をどのように活用し、取引や提携に関連するプロセスにおけるよくある失敗を軽減できるのか?

3.現在のシナリオプランニングは目的に合致しているか?

 シナリオプランニングは、「地政学的戦略に関する監督活動について寄せられた回答が最も少なかった」事実が示すとおり、取締役会と上級経営陣が検討すべき改善点もここにある。この欠陥に対処するには、リスク選好度に関する議論から始めることである。取締役会と上級経営陣は、グローバルなM&A、合弁事業や提携、サプライチェーン、サイバーセキュリティ、人材といった分野において、適切なリスクレベルについてどの程度一致しているのだろうか?

 そこから、取締役会は次のような課題を検討することができる。経営陣が策定する下振れリスク(企業存亡の危機)と上振れ機会(大幅なアウトパフォーム)のシナリオは、十分に幅広い結果を想定しているか?ネガティブなシナリオまたはポジティブなシナリオが起きてしまうことを早期に警告する指標は何か?そして、行動を起こすためのトリガーポイントは何か?である。

継続的なボラティリティと不確実性の中でのガバナンス

 2026年と2027年の国際秩序の正確な姿を予測することは困難かもしれないが、地政学的な分断化は、テクノロジーの変革、気候変動、人口動態の変化といったメガトレンドの勢いと相まって、企業にとって一定のボラティリティと不確実性を生み出しており、この状況は今後も続く可能性が高い。取締役は、機会とリスクに関するグローバルな視点を取締役会の活動に統合することで、こうした新たな地政学的状況を考慮する必要があるのだ。

トピック
新興リスク、リスクマネジメント


注意事項:この記事は、“How Boards Can Navigate Geostrategic Risks,” Robyn Bew | August 13, 2025, Risk Management SiteをRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
ロビン・ビューは、アーンスト・アンド・ヤングのEYアメリカズ取締役会問題センターのディレクター。
鈴木英夫はRIMS日本支部主席研究員。