価値の高いBCP演習を実施するための4つのステップ(2026年1-2月号)
ギャビン・ワット(訳:鈴木英夫)[*]

BCPの演習とシミュレーション
模擬演習の実施は、効果的な事業継続管理(BCP)プログラムにおいて最も重要な要素の一つである。しかし、その重要性は依然として過小評価されがちだ。演習を企画する者も参加する者も、監査担当者を満足させるための単なるチェックリストの確認作業のように感じることがある。演習がこのようにしか捉えられていないと、真の価値は失われてしまう。
演習はコンプライアンス要件を満たす必要もあるが、単にやればいいというものではない。インシデント対応チームの体制が適切であること、事業影響分析の結果が正確であること、そして事業継続戦略と計画が妥当であることを確認するための最良の方法が必要だ。
多くの組織は、計画のウォークスルーと机上演習から始める。これらは、事業継続能力と組織のレジリエンスを評価する上で非常に効果的な方法だ。組織全体の様々なレベルのチームを巻き込み、計画と対応体制をテストするための理想的な手段となる。そして組織が直面する主要なリスクのいくつかを深く掘り下げることもできる。他方、注目すべき欠点もある。それは、チームが演習疲れを感じることもあることだ。同じような構成の机上演習やウォークスルーを毎年実施すると、繰り返しになり、必ずしも期待どおりの結果が得られないのだ。
インシデントチームが十分な経験を積んでいる場合、レジリエンスをさらに高めるための次のステップは、「シミュレーション演習(simulated exercise)」*)に参加することだ。この用語の意味は人によって異なるが、最も重要な点は、シミュレーション演習が議論ベースの机上演習を超え、「実際の危機におけるようにチームに反応と意思決定を課す」ことで、シナリオに緊急性と現実感を与えることである。
*)訳者注:BCP(事業継続計画)におけるシミュレーション演習(Simulated Exercise)とは、「想定した災害シナリオに沿って、実際の動きを擬似的に体験するトレーニング」のこと。計画書を「作る」段階から、実際に「動ける」段階へ引き上げるための重要なプロセス。
シミュレーション演習の計画と構成方法
シミュレーション演習では、ストーリーボード(絵コンテ)を作成し、演習に必要な要素を作成できる演習チームを編成するために、綿密な計画が必要だ。まず、オブザーバー、ロールプレイヤー、ファシリテーターなど、すべての参加者を特定し、上級管理職の参加が不可欠であるため、彼らの参加可否を確認することが重要である。
シミュレーション演習は、インシデントの初期段階をベースにすることも、対応の途中から開始することも、あるいはタイムジャンプ*)を用いて複数の段階を組み込んで異なる対応フェーズに焦点を当てることもできる。このようなタイムジャンプは有用だが、「その期間に人やチームがどのように行動したか」という仮定に基づいている。計画段階でこの点を考慮することが重要だ。そうすることで、スキップされた期間によって準備や理解にギャップが生じなくなる。
*)訳者注:タイムジャンプ(Time Jumps)とは、演習の進行中に「架空の時間経過」を設けて、状況をスキップさせる手法のこと。現実の時間は数十分しか経っていなくても、演習内では「3時間後」「翌日の朝」「1週間後」へと時間を飛ばし、その時点での課題に取り組ませる。
シナリオ自体は、ビジネス影響分析プロセスの一環としてリスク評価を通じて特定された、組織に関連するあらゆるリスクを対象とすることができる。
計画を立てる際には、4つの重要な要素を考慮する必要がある。これらの要素はそれぞれ、演習の信頼性と価値を高め、得られた教訓を実際のインシデントに活かすことになる:
1.現実的なプレッシャーと緊急性を起こせ
チームを結集し、電話・メール・メディア報道・ソーシャルメディア投稿などを通じて提供される一連の指示に従って作業を進め、実際のインシデント発生時の速さを再現することが重要だ。これにより、時間的プレッシャーの重さを体感し、シナリオが現実のものであるかのように行動することができる。ロールプレイヤーは、組織を深く理解し、展開する状況に対応することで、シナリオにさらなるリアリティをもたらす。また、ロールプレイヤーは、どのボタンを押すべきかを正確に把握し、真に取り組むべき業務領域に焦点を当てることができる。
2.最適なチームを構成せよ
演習は一度に1チームずつ実施するのが最善である。参加者が多すぎると意思決定に遅れが生じ、演習の効果が低下してしまう。他のチームを参加させてはいけないわけではないが、演習中に専門知識が必要な特定の時点でのみ参加させるべきである。例えば、各分野の専門家は実際のインシデントチーム会議には参加しないとしても、彼らの経験と専門知識は、実際のシナリオを理解する上で不可欠である。
3.現実的な対応体制を設計せよ
シミュレーション演習の構成は、実際の危機発生時に組織がどのように活動するかを反映し、チームがインシデント対応の要件を正確に理解できるように計画する。可能であれば、会議室やコントロールセンターなど、実際の対応が行われるのと同じ場所で演習を実施するのがよい。ただし、スタッフの実際の拠点を考慮することも重要だ。ハイブリッド形式*)は、演習目的の管理がより困難ではあるものの、より現実的な対応であるため考慮されるべきである。
*)訳者注:「ハイブリッド形式」とは、「対面(リアル)」と「オンライン(リモート)」を組み合わせて実施する演習スタイルのこと。コロナ禍を経て、テレワークと出社が混在する働き方が一般的になったため、現在の実態に即した訓練として非常に注目されている。
4.現実感を保て
実際の対応チームを参加させることで、演習を実際のイベントのように扱うことが重要だ。より現実感を高めるために、組織は主要なサプライヤー・安全担当者・広報担当・監査人など、重大インシデントへの対応において役割を果たす関係者を参加させることも選択肢である。これにより、安全な環境において関係者がどのように連携するかを理解することで、最終的にはレジリエンス(回復力)をさらに高めることができる。対応策の調整が必要な場合は、実際の危機よりも模擬演習で確認する方が効果的である。
演習の効果を確保せよ
シミュレーション演習終了後、チームは「実際のインシデントに関与したかのような感覚」を得られるはずだ。これにより、ギャップや改善が必要な領域を発見し、プレッシャーの下での意思決定能力を検証し、連携を改善する機会が得られる。適切に実施された演習では、パフォーマンスを測定するだけでなく、自信を醸成し、組織全体に継続性に関するベストプラクティスを浸透させる。
シミュレーション演習は、組織が事業継続を単なる陳腐なコンプライアンス活動から脱却させる機会となる。演習を、プレッシャーの下でのチームの思考・意思決定・行動の仕方を変える、有意義な経験へと引き上げることができる。危機の現実をシミュレートすることで、この演習は組織の弱点を明らかにすると同時に、チームに次の実際のインシデントに対処するための訓練と自信を与え、組織のレジリエンスをさらに強化することになる。
トピック
業中断、コンプライアンス、危機管理、リスク管理
注意事項:この記事は、“4 Steps to Conduct More Valuable Simulated Exercises,” Gavin Watt | February 10, 2026,をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。ギャビン・ワットは、(英国に拠点をおく)Databarracksグループのビジネスレジリエンス・コンサルタント。
鈴木英夫はRIMS日本支部の主席研究員。